数ある契約の中でも、「連帯保証人」ほど恐ろしいものはありません。むごい法的義務ばかりを負わされ、権利がほぼないに等しいからです。一体どのようなリスクを負い、どのような結果を迎えることになるのでしょうか? ここでは、筆者が実際に目撃した連帯保証人のケースを紹介します。※本連載は、烏賀陽弘道氏の著書『敷金・職質・保証人―知らないあなたがはめられる 自衛のための「法律リテラシ―」を備えよ』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。

「でも、社長の契約書を破れば無効じゃないですか?」

私は、連帯保証人から降りるよう、村野さんに勧めました。私から見れば、村野さんは知らないまま破滅に通じるドアの前に立っているのです。「惻隠の情」という言葉があります。ほっておけないと思いました。私の実母が陥った転落も脳裏に蘇りました。

 

もちろん、いったんハンコをついて引き受けたのですから、普通は撤回できません。撤回するには、店舗の貸主と借り主である「社長」両方の同意が必要です。つまり二人を説得して撤回の同意書にハンコをつかせなくてはいけないのです。弁護士を雇っても、これは達成できなくて普通の難事業です。

 

「社長の事務所にある賃貸契約書を破って捨ててしまえばいいんじゃないですか」と村野さんは言うのですが(つまりそれで契約が無効になると思った)そんなに甘くはありません。契約書は2通作って、契約者両方(この場合は社長と貸主)が保管します。一通を捨てても、貸主がもう一通を持っています。そして家賃の滞納が起きたとき、貸主はその契約書を法的根拠に、村野さんに返済を求めるのです。

 

村野さんはためらいました。社長の意に背けば、クビにされ、職を失うかもしれないという不安がありました。クビにされなくても、いやがらせをされて職場を辞めざるを得ないように仕向けられるのではないかと恐れました。

 

しかし、連帯保証人になったままでは、滞納家賃を返さなくてはならないというもっと大きなリスクが延々と続きます。私はそうした連帯保証人の背負うリスクについて村野さんに説明しました。

 

村野さんは貸主を直接訪問し、連帯保証人を降りたいと伝えました。が、案の定、反応は冷淡でした。私から見ても、それは当然だと思います。貸主にすれば、物件を貸した相手側の会社内部の問題なのです。加えて「連帯保証人がいなくなる」というリスクを貸主が取る義務も必要も、どこにもありません。ある日突然やって来た、未知の人物である村野さんにそこまで親切にする理由もありません。

無事、契約解除となったが…

ここに至って、村野さんは弁護士を代理人として雇うことを決心しました。

 

いくつかの点が、村野さんに有利に働きました。前述のような、パワハラ的な環境でハンコをつかざるを得なかったこと。村野さんの勤め先が、タイムカードや労働契約書も作らず、残業代も払っていなかったこと。弁護士が入って、ようやく二人ともが連帯保証人の解除に同意したのです。破滅のドアの手前で、引き返すことができました。

 

連帯保証人の過酷な法的義務を知った後では、村野さんも「社長」や勤め先との関係を以前と同じに見ることができなくなりました。そんな不利な立場に自分を就かせたという事実を知ってしまうと、上司をそれまでとは同じには思えなくなったのです。連帯保証人から降りたい、いやダメだの押したり引いたりのやりとりの中で、感情的な摩擦も生まれました。結局、村野さんは3年間勤めた職場を辞めました。

 

ここでも、連帯保証人を依頼する・引き受けるというやりとりが、それまでの人間関係を吹き飛ばしてしまったことがわかります。連帯保証人になることは、それぐらいの破壊力を持っています。一生回復できないようなダメージを残します。

 

私なら、関係を大切にしたいと思う相手(家族、友人など)に連帯保証人を依頼したりは決してしません。逆に言えば、連帯保証人になってくれと依頼してくるような相手は、私との関係を大切には思っていないのだと考えます。

 

 

 

 

烏賀陽 弘道
報道記者・写真家

 

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