社会全体で女性の参画・活躍への取り組みが進む中、医療界では未だ圧倒的に男性優位の現状がある。しかし最近、変化が現れた。新宿ナビタスクリニック院長・濱木珠恵氏は、今こそ「過渡期」であると語る。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

現状「圧倒的に男性優位」だが、若い世代に変化

少し話がそれるが、ここで、筆者が毎年参加している医療ガバナンス学会による『現場からの医療改革推進協議会』のジェンダーギャップについて計算してみた。

 

この会の特徴は多方面の専門家が集まって医療現場の視点から問題提起と議論を行うことであり、演者は医師とは限らない。第1回が2006年で、発起人は男性30人女性5人。当時に活躍の中心だった世代に女性医師が少なく、事務局の人脈も男性が多かったからだ。

 

演者全体の男女比は、病気の当事者や患者家族のセッション、看護師のセッションを設けたときに女性演者が増えたが、圧倒的に男性優位だ。事務局は意識していないだろうが、マンスプレイニング寄りではある。だがこれが医学界の現状とも言える。

 

*現場シンポのサイトの目次より算出。誌上発表は除く。指定発言予定のみでセッション未定の政治家は除く
[図表]現場からの医療改革推進協議会シンポジウム演者 男女比 *現場シンポのサイトの目次より算出。誌上発表は除く。指定発言予定のみでセッション未定の政治家は除く

 

それでも最近になって少し変化があった。若い学生や研修医が発表する場では女性演者が増えてきた。今年の予定では、男性38人、女性9人で相変わらず男性演者が多いが、20代30代の女性演者に注目してほしい。

 

今年の演者の一人、妹尾優希さんはスロバキアのコメニウス大学医学部に通う医学生だ。医師になる道を模索したとき、自分に一番適していると考え海外の大学を選んだ。文化や考え方の違う海外で研鑽を積むことを選んだ彼女は、決断と行動が早く、そのバイタリティにいつも感心している。

 

2年前の夏、モロッコで1ヵ月の研修を受けた彼女は、モロッコ人の男子医学生と知り合った。彼は日本の医療に関心があり日本の病院での実習を予定していたが、仲介してくれた学生団体との行き違いがあって、直前になって予定していた実習ができないと判明した。彼女は伝手を頼りに日本で実習を受け入れてくれる病院を探し、モロッコから当該科の責任者に連絡を取って実習を調整して、さらに日本での移動手段や宿泊先もすべて手配したそうだ。ちなみに彼女は今年、新型コロナ流行の影響で紆余曲折があった末、福島の病院で病院実習をしている。

 

また、彼女は毎年の長期休暇でも積極的に我々の研究活動に参加し、共著者としても複数の論文に名を連ねているが、今年は第一著者として2本の論文を作成した。そのうち1本は、経済協力開発機構(OECD)加盟36ヵ国の女性医師比率に影響を与える社会的特徴を調べたもので、今年1月にInternational Journal of Health Policy and Management誌に掲載された。女性医師の比率に、高等教育を受ける機会との関連性があると示している。ニュージーランドで高校時代を過ごし、東欧で大学生活を送る彼女の視点からの問題提起だ。

「活動の内容が重要」肩書に囚われず、研鑽を積む若手

今年の演者の一人、看護師の樋口朝霞さんは、北海道大学に在学中から、医療系学生の国際交流団体に参加するなど、積極的に見聞を広げる活動をしていた。大学を卒業後、東京の虎の門病院に勤務していたが、看護研究や国際的な共同研究に携わりたいと考えた。組織に所属していると活動が制約されてしまうため、退職して医療ガバナンス研究所の研究員となり、大学院生として研究活動を続けることを選んだ。

 

週末には、看護師としても働いている。研究に専念するのではなく、常に現場の視点を持ち続けるためだ。彼女自身は高齢者の終末期における蘇生措置拒否についての論文をNursing Open誌で発表したり、医療経済について英国のLancet誌にレターを投稿したりしているが、一方でネパールの医療者との共同研究も行なっている。彼女は、学生時代から交流のあったネパール人医師を招聘し、日本の病院を見学してもらうとともに、日本人医師と議論を行える場を調整した。

 

その後、2015年12月のネパール地震では東日本大震災の事例をもとに寒冷地での災害後対応の必要性を訴えるレターを2016年のLancet Global Health誌に投稿した。この地震に関連してはカトマンズの大気汚染問題や、がん患者の入院の動向についても学術論文を作成している。これらは東日本大震災での経験をネパールでいかした共同研究だ。また2017年の南ネパールでの洪水に際し、インドとの二国間紛争が災害対応を難しくしていることを例にして災害時の国際対応への問題提起をLancet Planetary Health誌に投稿している。

 

自分が彼女達の年齢だったときに同じことができたとは思えない。二人とも、肩書きではなく実力をつけようと努力している若手である。

 

今回は演者ではないが、我々のナビタスクリニックで働く山本佳奈医師も、専門医資格という肩書きを選ばず、女性の健康問題をテーマに臨床医としての経験を積むことを選んでいる。彼女は滋賀医科大学を卒業後に福島県南相馬総合病院で初期研修を受けた。後期研修の期間中、自分の専攻を決めようとする過程で、医師本人の希望に反して特定の研修施設や期間を強制してくる専門医制度に疑問をもち、朝日新聞『私の視点』にて専門医制度を批判した。

 

肩書きではなく仕事の内容が重要、というのは、前述の『さらば厚労省』の著者の考え方にも通じる。おかしいと感じることに対して、はっきりと異を唱えたことも評価できる。

 

彼女は資格をとるよりも実質的な活動をすることを重視した。日々外来での一般診療を続けながら、大学院に属して英語論文を作成している。自身のテーマである女性の健康に関し、今年6月には、日本と上海の若年女性における鉄欠乏性貧血を比較した論文をCureus誌に発表した。ほかにもロート製薬で女性の健康についてアドバイザーとしての活動や講演を行ったり、AERA.dotでの定期連載などの情報発信をしたりしている。

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