社会全体で女性の参画・活躍への取り組みが進む中、医療界では未だ圧倒的に男性優位の現状がある。しかし最近、変化が現れた。新宿ナビタスクリニック院長・濱木珠恵氏は、今こそ「過渡期」であると語る。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

活かされない教訓、形骸化する有識者会議

10年前の新型インフルエンザの時には「議事録を作成するなど議論の透明性を確保するとともに、情報の混乱を避けるため、正確な意見集約や広報に努めるべきである」という総括がなされた。現在の分科会に名を連ねる尾身茂氏や岡部信彦氏は当時の対策会議にいたはずだが、この教訓は活かされていない。今回の新型コロナ感染症の流行は、すべての医療関係者と全国民が共通の経験として学習するべきだ。専門家会議は、政府と厚生労働省から舐められている。あるいは舐められているのは、国民か。

 

新型インフルエンザが流行した2010年に出版された『さらば、厚労省』という書籍がある。日米の病院で医師として研修を積んだのち、厚労省に入省した元女性キャリアが書いた本だ。新型インフルエンザ対策で混乱する行政において、国民の健康よりも自分たちの都合を優先させる“ペーパードクター”の医系技官と厚生労働省を痛烈に批判している。国民の方を向いていない医系技官の欺瞞に満ちた態度に、同じ医師免許を持つものとして、許せなかったそうだ。医系技官の肩書きというキャリアに執着せず、厚生労働省の嘘を指摘していたのが印象的だ。

 

今もまた、国民全体の利益ではなく、組織の立場が優先されている。本来、医師は「専門家」という独立した立場から発言する必要がある。だが専門家会議に選ばれている医師免許を持つ男性メンバーのほとんどは、感染症研究所や大学病院でキャリアと研究実績を積み、組織に所属している。組織人は組織での立場にとらわれて無難な発言をしがちだ。政府の思惑に真っ向からは対立しない。どうせなら、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIH)所長のアンソニー・ファウチ博士ばりに、専門家としての矜持を見せて欲しい。新しい知見をもとに判断する過程をリアルタイムに共有して今後に活かそうというとき、透明性の欠如は致命的だ。

 

有識者会議の形骸化は、男性優位の人選にも表れている。有識者会議に女性が少ないのは、女性医師に有能な人材が少ないからだという人もいる。50代以上では女性医師が少ないのは事実だが、むしろ意思決定は男性が中心という過去の幻想を引きずっているのだろう。そんなことを続けていても先細りするのは目に見えている。今後、人選の方針を変える必要がある。

男性優位を脱却、真の能力主義へ…これは世代間争いだ

実は、医療系の分野での男女格差は日本だけの問題ではない。2019年にWHOから出された『Delivered by Woman, Led by Men: A Gender and Equity Analysis of the Global Health an Social Workforce』 という報告がある(https://www.who.int/hrh/resources/health-observer24/en/)。

 

この報告によると医療や保健衛生の業務に携わる労働力の70%が女性であるのに、管理職についている女性は半数以下である。また国際保健はほとんど男性主導であり、国際保健機関の長の69%は男性、委員会の議長の80%も男性だと指摘している。

 

この報告では、能力のある女性を登用しリーダシップをとらせることによって社会全体の保健衛生を向上させていく必要があるとしている。

 

米国も同様だ。2015年には米国の現役医師の3分の1以上(34%)が女性であり、研修中の医師全体の46%、米国の医学生全体の半数以上が女性と推定される。2017年は、米国の医学部に入学する女性の数が、史上初めて男性の数を上回った年となった。しかし今なお医師の間でさえ多くの女性差別があるという。

 

ある研究によると、指導的地位に占める女性の割合は依然として少なく、女性医師は医学部の専任教員の38%を占めているが、専任教授の21%、学科長の15%、学部長の16%にすぎない。これに対しては、2018年に米国医師会(American college of physicians)が『医師の報酬とキャリアアップにおける男女平等の達成』と題したポジションペーパーを出している。

 

米国医師会は、「学術機関、医療機関、医師のプライベートプラクティスグループ、および専門の医師会員制組織は、実務、教員、リーダー職に就く女性の数を増やし、以下のような機会への平等なアクセスを構築するための措置を講じるべきである。」などとして積極的に多様性への対応をするように呼び掛けている。

 

これらは、単に女性リーダーを増やせという主張ではない。能力主義なら性別は関係がないはずだが、現実には男性優位で選ばれる。社会環境も女性が出て来にくい状況のままだ。しかし、能力があるなら平等に活躍の機会が得られる社会であれば、指導的地位につく女性の数も増え、多様性の担保につながっていくはずだ。これは男女間の勢力争いではなく、古い価値観からの脱却という世代間の主権争いだ。

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