精神科医が診た…「医療少年院に連れてこられた子どもたち」

うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症――近年、これらの悩みを抱える人はますます増えている。実は、それぞれに共通する原因になり得るものとして、親との関係によって築かれる「愛着」がある。ここでは、「愛着アプローチ」という手法を用いて、現代人の悩みの解決に寄与したい。※本連載は、精神科医・作家である岡田尊司氏の『愛着障害の克服 「愛着のアプローチで人は変われる」』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「愛着」は遺伝ではなく、後天的に身に付く

人が抱える悩みはさまざまである。うつ、不安・緊張、対人関係の問題、依存症、過食、気分の波、不注意、育児の悩み、恋愛問題、不倫、離婚、非婚、レス、DVや夫婦関係の悩み、心の傷、子どもの不登校、ひきこもり、発達の課題、非行……。

 

ところが、これらすべてに共通する原因となり得る問題として、その関連が指摘されているものがある。それが「不安定な愛着」である。

 

愛着とは、母親との関係によって、その基礎が作られる絆だが、それは他の人との関係に適用され、また修正されていく。愛着は対人関係の土台となるだけでなく、安心感の土台となって、その人を守っている。

 

愛着というメカニズムの正体は、オキシトシンというホルモンによって支えられた仕組みである。オキシトシンは、脳の中では神経伝達物質のように働いている。安定した愛着は安心感を高め、人とのふれあいに喜びを生み出すため、育児や夫婦関係のような親密なかかわりを維持するとともに、幸福と社会性の源ともなっている。

 

愛着が安定している人は、他の点で不利なことがあっても、それを撥ね除けて、幸福や安定した生活を手に入れやすい。しかし、不幸にして不安定な愛着しか育めなかった人は、安心感においても、対人関係や社会適応においても、生きづらさを抱えやすい。

 

あなた自身が生きづらさを抱えている場合はもちろん、あなたが周囲の人との関係で苦しさや悩みを感じているという場合、そこには不安定な愛着の問題が、しばしばひそんでいる。愛着は、後天的に身につけたものであるにもかかわらず、まるで生まれもった遺伝子のように、その人の行動や情緒的な反応、ストレスへの耐性など、人格の重要な部分を左右し、結果的に人生さえも左右する。

 

ただ、幸いなことに、遺伝子とは違って、愛着は、ある程度可塑性をもつ。成人した後でさえ、不安定だった愛着が安定したものに変化することもあるし、その逆の場合もある。愛着が、幸福や社会適応に極めて重要だとすると、愛着が安定したものとなることは、人生を幸運なものにも不運なものにもする重大な決定要因だといえる。

「愛着問題」に苦しむ医療少年院の子どもたち

筆者は、医療少年院での二十年にわたる臨床の中で、愛着というものの働きの重要性に改めて気づかされた。医療少年院に連れてこられた子どもたちは、大部分が深刻な愛着障害を抱えていたのだが、治療や回復を困難にする原因も、まさにその点だったからである。

 

しかし、非常に回復が困難なケースの中でも、ときに劇的な改善が見られ、立ち直っていくケースもあった。それらのケースでは何が起きているのか。そこに回復のヒントがあるのではないか──。それは、傷つき、きわめて不安定になった愛着が、どのように安定を回復することができるのかという疑問への答えを探すことでもあった。

 

その中で確信するようになったのが、不安定な愛着の改善こそが、根本的な問題の改善にかかわる最も重要な回復因子だということである。そして、医療少年院に連れてこられるような悲惨な境遇──家庭の崩壊、虐待、病気、発達の障害、薬物依存など、いくつもの悪条件が重なったケース──でも、愛着が安定する方向にうまく働きかけることができると、改善と立ち直りのチャンスが生まれるということであった。

 

冒頭に羅列した、われわれを取り巻く悩みの数々を、もう一度思い出してほしい。うつや気分の障害、不安障害、さまざまな依存症、発達の問題、対人関係の問題、結婚や夫婦関係の悩み、ひきこもりなど、現代社会にあふれる精神的な悩みの多くに、愛着の問題が関係しているという事実。これらの多くは、薬による治療ではうまくいかない問題でもあり、多くの人を悩ませ、専門家でさえも手を焼いている難題ばかりだといえる。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

医療少年院で筆者が出会ったような、きわめて症状が複雑で、通常の治療では回復困難なケースも、愛着の部分に働きかけることによって改善できるとしたら、社会にあふれているもっと一般的なケース、もう少し軽症で、境遇もそれほど悲惨ではなく、利用できる社会資源にも恵まれているケースでは、愛着の部分にアプローチすることによって、もっと容易に、大きな改善や根本的な回復が得られるのではないのか。

 

「愛着アプローチ」と呼ぶ方法が生まれたのは、そうした経緯からであった。

精神科医、作家

1960年香川県生まれ。精神科医、作家。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒、同大学院にて研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などで困難な課題を抱えた若者に向かい合う。現在、岡田クリニック院長(枚方市)。大阪心理教育センター顧問。

著書に『愛着障害』『回避性愛着障害』『死に至る病』(以上、光文社新書)、『ストレスと適応障害』『発達障害と呼ばないで』(以上、幻冬舎新書)、『パーソナリティ障害』(PHP新書)、『母という病』(ポプラ社)、『夫婦という病』(河出書房新社)、『マインド・コントロール』(文藝春秋)など多数。

小笠原慧のペンネームで小説家としても活動し、『DZ』『風の音が聞こえませんか』(以上、角川文庫)、『あなたの人生、逆転させます』(新潮社)などの作品がある。

著者紹介

連載親子、友人…対人関係が上手くいかない人へ!「愛着障害」を克服する方法

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

愛着障害の克服 「愛着アプローチ」で、人は変われる

岡田 尊司

光文社

幼いころに親との間で安定した愛着を築けないことで起こる愛着障害は、子どものときだけでなく大人になった後も、心身の不調や対人関係の困難、生きづらさとなってその人を苦しめ続ける。 本書では、愛着研究の第一人者であ…

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