患者が医療機関を選ぶ時代になり、医師も経営努力が必須となってきました。そこで本記事では、協奏会計・税理士事務所の田浦俊栄氏と小泉暁之氏が、「コンサル頼み」で失敗した医師の事例を紹介し、理想のクリニックを開業するために必要な知識を解説します。

悪魔の言葉「開業後はローンが組めなくなりますよ」

B先生が資金繰りに窮した原因は一つではありません。いくつもの小さな要因が複雑に絡まり、失敗の罠にはまってしまったのです。

 

一つ目は、医療モールであったこと。B先生が入居した医療モールには五つのクリニックが入居可能でしたが、駅前ということでテナント料が高くなかなか他のクリニックが入居してきませんでした。開業して一年以上、診療をしているのはB先生が経営する内科だけでした。患者さんにしても、閑散とした医療モールの中にある内科に通う気にはなりません。それが患者さんの集まらない理由にもなりました。

 

また、医療モールは入居しているクリニックのうち一つの評判が悪いだけでも、医療モール全体の評判が落ちることがあります。後から入る場合は、どうしてその場所が空いていたのか入念な下調べが必要です。このようなデメリットを嫌がり、医療モールを敬遠する先生方もいます。

 

失敗した原因の二つ目は、B先生が開業の際に大きな借金をしていたことです。「開業後はローンが組めなくなりますよ」──。コンサルタントのささやきに気持ちを動かされて高級車を買ってしまいました。その返済も毎月の資金繰りを圧迫しました。

 

たしかに、開業するとローンが組みにくくなります。勤務医時代は安定収入がありますし、会社員に比べて給与が高いので、ローンの審査に通らないことはほとんどありません。しかし、ローンの審査では勤続年数が大きく影響します。

 

それは医師でも会社員でも同じです。開業したばかりで収入が安定しない時期は、ローンを断られることは珍しくありません。そこで、開業する前に借りておこうとなるのです。B先生の場合はすでにマイホームは購入していたので車でしたが、開業前に慌てて住宅ローンを組む先生もいます。

 

三つ目は、開業コンサルが作っていた事業計画書の患者数などが、すべて理想を描いたものだったことです。そしてその計画に合わせて不要な医療機器を購入してしまったのです。開業前には診療圏調査などを行い、そのデータをもっともらしく引用して見込みを立ててくるのですが、現実的ではないことが多いのです。

 

弊社がB先生と出会ったときには、すでに厳しい状況に追い込まれた段階でした。すぐに借入先の銀行と交渉して返済期間の延長を認めてもらい、毎月の返済額を減らしました。

 

しかし、それだけでは十分ではありません。スタッフも看護師一名を残して辞めていただき、先生にはクリニックの休診日と夜間にアルバイトに行ってもらうことにしました。夜間のアルバイトはクリニックの診療が終わってから行きますが、在宅診療所ではオンコールがなければ寝ていればいいので、負担はそれほど大きくありません。そうやって副収入を得ることで何とか食いつなぎ、クリニックを継続した結果、今ではかなり患者さんが増えて法人化も視野に入っています。

 

■まとめ

●医療モールの空きスペースに入るなら事前調査が必須。

●コンサルタントのささやきに乗って借金をすると痛い目に遭う。

●理想を描いた事業計画書は役に立たない。

 

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