シニア人材と現役社員との間でトラブルが多いという話をよく耳にします。もちろん、シニア人材に限らず、どの世代の社員でもトラブルは起きるでしょう。シニア人材の場合、年齢的に特有の傾向があり、それさえ理解しておけば、たとえトラブルが起きても早めに対処できます。本記事では、シニア人材側の問題点について、ご紹介します。

スマホなど、新しい機械に慣れるまで時間がかかる

シニア人材の問題点(3)社会・環境の変化に対応しにくい

 

社会情勢や環境の変化に適応するのが苦手というのもシニア人材の弱みです。特に今は目まぐるしく社会情勢が変わり、新しい技術が次々に誕生するので、シニア世代はついていくのが大変です。

 

私もあまり得意ではないのですが、シニア人材は、パソコンやタブレット端末、スマートフォンなど新しい機械やシステムに慣れるまで時間がかかります。新しいことを学習する能力は年齢とともに衰えてくる部分ですから、若い人より適応するまでに時間がかかることは否めません。

 

また、SNSなど過去にはなかったツールに対する理解や経験が浅いこともシニア人材の弱みです。

 

しかし、このような技術の問題は、さらに新しい技術が生まれれば意外と簡単に解決してくれますから、実はあまり気にしなくていいのではないかと思います。

 

今は、非常に複雑に見えることも、将来は子供から高齢者までが何も考えなくてもできるようになると推測できます。例えば、かつてパソコンはマニアだけが使える特別な機械でしたが、今は特別な知識がなくても誰もが使えるようになりました。

 

現在、最も煩雑といわれているコンビニ店員の仕事では、レジ打ち以外に、宅急便の受付やコンサートチケットの発行、通販や公共料金支払いの対応などのほか、掃除や品出し、ゴミ捨て、賞味期限切れ商品のチェックなど、非常に多種多様な業務をこなさなければなりません。

 

したがって、シニア世代が働くにはなかなかハードルが高いといわれています。しかし、これもPOSレジやセンサーの技術革新によって徐々に単純化されるでしょう。いずれシニア世代も楽々働けるようになると考えられます。

経験のない仕事に「尻込み」してしまうケースも

また、経験のない仕事に対して尻込みをするのもシニア人材の弱みです。転職の経験がなく、一つの会社でその道一筋で仕事をしてきた人は、経験のないような仕事をやってもらおうとするとたいていは尻込みします。

 

歳をとると、人間は案外臆病になるものです。若いうちは臆病ではなかった人もそうなります。「嫌だ、嫌だ」と言いながらも、きちんと勉強をしてもらえばできるようになるのですが、そこに至るまでには周囲からのサポートが必要です。

 

「俺は、なんでもできた」「俺は会社でトップだった」と言う人ほど、違う仕事をやってもらうとうまくいかなかったりするものです。

 

相撲を例にすると、押し相撲の強い人は変化に弱かったりするので、ちょっと変化をつけて攻められると、格下を相手にしてもぱたんと倒れて負けてしまうことがあります。相撲に四十八手があるように、相手によっては押したり引いたりできるほうが勝てるわけです。

 

もともと柔軟性のなかったシニア人材が、柔軟に対応できるようになるのは難しいと思いますが、それでも根気よく周りがサポートしていけば、変われる可能性はあります。

 

聖路加国際病院名誉院長の日野原重明先生は、100歳からフェイスブックを始めました。それをシニア人材に伝えたら、人は何歳からでも新しいことに挑戦できるのだと気づいてもらえるのではないでしょうか。

若手社員は「褒めて伸ばせ」がトレンドだが・・・

シニア人材の問題点(4)褒めて育てることが難しい

 

最近の若手社員に対しては、𠮟って育てるよりも褒めて伸ばせというのがトレンドのようですが、シニア人材には褒めて伸ばすという方法はほぼ通用しません。若手の社員とは別の対応が必要になるのもシニア人材の弱みになります。

 

若い新入社員の場合、仕事ができないところからスタートするので、できたら褒めることを繰り返すなかで自信をつけさせて実績を上げていくという形の人材育成ができます。

 

一方、シニア人材の場合は、もともと仕事ができるのは当たり前ですから、褒めて伸びるというものではありません。むしろ、褒め方によっては子ども扱いされているように感じて、自尊心が傷つく恐れもあります。

相手の価値を認める言葉、共感する言葉を投げかける

シニア人材を動かすには、褒めるよりも、相手の価値を認める言葉や共感する言葉を投げかけるほうが有効です。

 

例えば、「よくできましたね」ではなく、「うまくいきましたね」と声をかけると、相手の価値を認めていることになります。「頼りにしています」「あなたのおかげでうまくいきます」「あなたでないと、できない仕事ですね」などの言葉がけもいいでしょう。

 

このように若手社員とシニア人材で違う対応をしなければならないのは、教育担当者には煩わしく感じられるかもしれません。しかし、年齢性別にかかわらず、人は自分なりの価値観を持って行動し、生活をしています。

 

もともと人の考え方や価値観を変えるのは容易なことではありませんが、一般に人は歳をとるとともに自分の考えに固執して、それを変えるのが難しくなります。いわゆる「頭が固くなる」ということです。シニア人材にその傾向があることは認めなくてはなりません。

 

シニア人材は今までずっと仕事をしてきた方々ですから、自分の仕事に対しては自信があり、ポリシーも持っています。それを損なうことなく、現場の状況と擦り合わせることができなければ、新しい職場でも活躍できません。それができるかどうかが、シニア人材を活かせるかどうかのカギとなるでしょう。

「シニア人材の活用=老後の楽しみの提供」ではない

シニア人材の問題点(5)ハングリー精神がない

 

シニア人材のなかには「第二の人生」という言い方をする人がいますが、私はそういう方は仕事への取り組み方がどこか趣味の延長になっているような気がします。定年前と同じように責任感を持ち、「何が何でもこの仕事を成功させよう」とする熱意が欠けているように感じるのです。

 

私にしてみれば、今の仕事は第二の人生ではありませんし、今が現役人生です。

 

そもそも今の仕事を第二の人生だと考えるのは、クライアントに対して失礼な話です。クライアントの立場に立てば、第二の人生だからといっていい加減な仕事をされては困るのです。

 

同じ理由で、「現役時代」というのも使ってほしくない言葉です。

 

「私が現役のときは……」と言うと、相手は「じゃあ、今は現役ではないのなら、なんですか? 現役を退いたってことは、遊びでやっているんですか?」と感じる可能性もあります。今の仕事を真剣にやっていないのかと思われても仕方がないでしょう。それではクライアントに失礼ですから、私は決して言ってほしくないと思います。

 

シニア人材を活用するのは、その人の老後の楽しみを提供するためではありません。その点をシニア人材の方にまず理解してもらわないと、仕事はうまくいかないでしょう。

経済的な余裕があり、仕事を最優先に考えないシニア

仕事に対する姿勢に関しては、報酬にはこだわらないところが逆に弱みになっている部分もあります。

 

私が採用してきたシニア人材は経済的に余裕がある方が多いので、ガツガツ仕事をするというよりは自分の空いている時間に仕事を入れるというスタンスの方が大半です。要するにハングリー精神がないのです。

 

だから、家族旅行や町内会の集まりがあるときは、そちらを優先することもあります。要は、仕事よりプライベートが大事なのです。

 

その日に打ち合わせが入っていても、「孫の面倒をみなくちゃならなくなった」という理由で突然休むこともあります。そうすると、代役が出ていかなくてはなりません。

 

もちろん、若手社員も真面目な人ばかりではなく、ずる休みするような人はいますが、その場合も「自分の都合で休むのは気まずい」という思いはあるから、「親戚に不幸があって……」のように理由を考えるでしょう。シニア人材の場合は、堂々とプライベートを理由に挙げるので、雇う側は面食らうかもしれません。

 

シニア人材は経済的に余裕があるから、仕事を最優先とは考えないのです。したがって、あえてシニア人材を採用する企業としては、そういう弱みを理解したうえで受け入れるというスタンスを取らなければなりません。

 

人件費は抑えられるのですから、通常よりも人数を増やして、1人でできる仕事を数人でシェアするワークシェアリングのような方法も導入できます。そうすれば、突然誰かが抜けても、ほかの人で穴埋めできるのです。

 

また、時代は仕事を第一に考えるべきだという流れから変わってきています。

 

仕事や収入はそこそこあれば十分で、家族を大事にして人生を充実させるほうが大事という価値観は、徐々に若い世代にも広がっています。社会全体の風潮がそういうふうに変われば、ハングリー精神のなさもシニア人材の弱みとはいえなくなるでしょう。

本連載は、2017年5月29日刊行の書籍『シニア人材という希望』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

シニア人材という希望

シニア人材という希望

中原 千明

幻冬舎メディアコンサルティング

超高齢社会の到来とともに、日本人の働き方は大きく変わる――。 都市銀行でマネジメント職を歴任。定年後に起業し、多数のシニア人材を雇用する経営者が語る“新しい労働の在り方"とは? 2013年4月1日、高年齢者雇用安定…

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