どうやって老人ホームを選んだらいいのか?それには入居者の生の声を聞くのが一番と、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者は断言します。そこで著者は、数々の入居者のエピソードを通して、ホームでの暮らしの悲喜こもごもを紹介。現在、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

夜は元銀座クラブママの呼び込みが

特に、食べ物については、各自の居室に冷蔵庫があるため、数日間程度であれば、総菜などを保管することは可能でしたが、中には賞味期限切れの食べ物が長く放置されている場合もありました。

 

小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)
小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)

夜勤帯での仕事がいち段落する21時過ぎから、スナックGの第2幕が始まります。

 

常連の入居者が自室に帰ってしまった後、夜勤者に対し「少し休んでいったら」という彼女の呼び込みが始まります。「美味しいローストビーフがあるのよ。今日、弟が来て差し入れてくれたの」とか、「今日は、手がかかる人が入院しているでしょ。少しぐらい付き合いなさいよ」と言って夜勤職員を誘います。積極的に誘われる職員は、だいたい、若くて体格の良いスポーツマンタイプの職員です。毎日毎日、夜勤帯のリーダー職員の判断で、「少しぐらい相手をするのも介護の内」ということで、急用がなければ30分程度を職員がお相手をする慣例になっていました。

 

もちろん、勤務中なのでお酒は飲みません。そのあたりは彼女も心得ており、日本茶かウーロン茶が出てきます。元気で自立しているとはいえ、既往歴を持ち、主治医からも「物忘れ等が最近出現しているので油断は禁物、要観察をしてください」と言われている関係で、彼女がどのような暮らしをしているのかを知る必要もあるので、居室内での相手をすることに対しては介護業務という位置づけで運営していました。Gさんの居室には、不釣り合いなほど大きな冷蔵庫があります。電子レンジも備え付けてあります。彼女の自慢は、30年以上継ぎ足し使っているぬか床です。中には、キュウリやダイコン、ナスなどがほどよく漬かっています。さらに、父親の後を継いでてんぷら屋さんを経営している弟さんが差し入れるてんぷらや煮物などが所狭しとタッパーに入っています。

 

「今日ね。弟が持ってきてくれたうちの天ぷらよ。レンジでチンするから食べていってよ」。そう言って紙皿にてんぷらを載せてくれます。「天つゆや薬味も弟が持って来てくれているから美味しいでしょう。うちの天ぷら」と言いながら、自身はイモ焼酎のお湯割りをちびりちびりと飲んでいます。たわいのない世間話をしながら30分程度の時間が経過すると決まって職員が持っているナースコールに他の職員から連絡が入り、居室を退出する口実が発生します。

 

「Gさん、仕事が入っちゃったから行かなきゃ!」「あらそう、大変ね」。いつも、こういう会話で居室を後にします。

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誰も書かなかった老人ホーム

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小嶋 勝利

祥伝社新書

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老人ホーム リアルな暮らし

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