老後資産の形成「株の長期投資・米ドル保有」が有効な根本理由

経済評論家・塚崎公義氏による「人生100年時代の老後資金を考える」シリーズ。第22回は、老後資産のインフレ対策についてです。せっかくコツコツ働いて資産を積み上げても、インフレが来て目減りしてしまったらガッカリです。そんな事態で泣かないためにも「リスク分散」について考えましょう。お勧めは株式投資と米ドルによる資産保有です。どのような効果が得られるのか、初心者にもわかるよう平易に解説します。

長期投資が前提なら「株はインフレに強い」といえる

大切な老後資金、全額を銀行預金にしているのは危険です! ご覧の通りの超低金利ですし、なによりインフレが来たら、目減りしてしまいます…!!

 

いいまわしは違えど、この類の話はこれまで何度も耳にされてきたことでしょう。では、資産のほとんどが銀行預金の人は、どのような対策を立てたらいいのでしょうか。

 

筆者はまず「株式投資」と「米ドル資産保有」を検討してはいかがか、と申し上げたいと思います。

 

株価は、短期的にはさまざまな要因で変動しますから、インフレに強いとはいえませんが、長期投資をするのであれば「インフレに強い資産」だといっていいでしょう。長期的には株価は「適正株価」の周囲を行ったり来たりするはずですし、インフレになると「適正株価」は上昇するからです。

 

ここでいう「適正株価」とは、「PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった指標が、妥当な範囲内である株価」という意味です。要するに、会社の利益や保有資産等から考えて妥当な株価である、ということ。インフレになると会社の利益や保有資産が増えるので、適正株価が上がっていくのが普通なのです。

 

インフレになれば、会社の売り上げもコストも増え、差額である利益も通常は増えます。「売り上げ」「仕入れ」「人件費」がインフレ率どおりに増えるとすると、売上から仕入れとコストを差し引いた利益も、インフレ率どおりに増えるというのが理屈ですから。

 

さらにうれしい話もあります。コストの一部である減価償却は、インフレが来ても増えないのです。なぜなら、減価償却は、設備投資が行われたときに将来の減価償却額が決定するからです。

 

見方を変えて考えてみましょう。

 

A社はインフレ前に建てた安い工場で製品を作っています。しかし、ライバルであるB社は、インフレ後に建てた高い工場で製品を作っています。つまり、ライバルであるB社のほうがコストが高くなります。

 

B社が高いコストに見合った高い値段で製品を売るので、A社もB社並みの値段で売れば、コストが安いぶんだけ大いに儲かる、というわけですね。

 

「BPS(1株あたり純資産)」についても考えてみましょう。インフレになると資産の価値は増えます。しかし、負債の額はインフレになっても増えるわけではないので、差額である純資産(株主の持分)は増加します。インフレによる「債務者利得」と呼ばれるものですね。

 

仮に、企業がバランスシートで資産の価値を時価評価せず、買ったときの値段で評価し続ければ、バランスシート上の純資産は変化しませんが、それでも適正株価は上がります。

 

A社とB社のバランスシートがまったく同じだとして、A社はインフレ前に購入した安い不動産等を大量に持っていて、B社はインフレ後に購入した高い不動産しか持っていなければ、A社の株価の方が高くなるのは当然なのです。

なぜ「ドルはインフレに強い資産だ」といえるのか?

米ドルの値段、つまり為替レートは、さまざまな要因で変動しますが、長期的に見てドルの値段に最も大きな影響を与えるのは、日米両国の物価です。日本と米国の物価水準が等しくなるような為替レートが適正であり、実際の為替レートは諸要因によって適正レートの周囲を行ったり来たりしているというわけですね。

 

日本の物価が米国より高いとすれば、日本人がドルを買って米国の物を輸入するでしょうから、ドル高になります。ドル高の流れは、日本と米国の物価が等しくなるまで続きます。ですから、日本と米国の物価は等しくなるのです。あくまでもこれは大原則であって、例外は数多くありますが。

 

さて、現在の日本と米国の物価水準がおおむね等しいとして、今後日本がインフレになって米国がインフレにならないとします。なにが起きるでしょうか?

 

日本人から見ると、米国の物を安いと感じるようになるでしょう。その結果、円をドルに替えて米国から物を輸入する日本人が増えるはずです。そうした人々のドル買いによってドルの値段は上がるでしょう。つまり、日本がインフレになると、米ドルは値上がりするわけです。

 

ドルがインフレに強い資産だ、ということがご理解いただけたでしょうか。

銀行預金+株式&外貨の組み合わせで「リスク軽減」

冒頭でも触れたとおり、老後資金を全額銀行預金で持っていると、インフレが来たときに目減りしてしまいます。銀行預金はインフレに弱い「リスク資産」なのです。したがって、さまざまなリスク資産を少しずつ持つことで、リスクを軽減することができるわけですが、その際にインフレに弱い銀行預金とインフレに強い株や外貨を両方持つことは、リスクの軽減に大変有効です。

 

資産の一部を株式や外貨で持っていれば、最悪の事態は避けられます。インフレで預金が目減りしたときには、株や外貨が値上がりしている可能性が高いため、その部分については高く売った利益でインフレ後の生活が維持できるからです。全額を銀行預金で持っている場合よりも、インフレが来た場合の「被害」を抑えることができるわけですね。

 

もっとも、ドル預金をしていると、米国がインフレになったときに困ります。米国人がドルを売って日本から物を輸入するようになり、ドルが値下がりしてしまうからです。

 

それを避けるためには、米国株を買っておけばいいでしょう。米国がインフレになると、ドルが値下がりして損してしまいますが、その分だけ米国株が値上がりして多くのドルが受け取れるのであれば、問題はありませんから。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

では、米ドル以外の外貨についてはどうでしょうか?

 

考え方は米ドルと同じですから、外貨であれば米ドルでなくても構いませんが、高金利通貨には別の意味で大きなリスクがあることは認識しておきましょう。「外貨を持つなら高金利通貨」と考える読者もいると思いますが、高金利通貨には、高金利である理由があります。

 

高金利通貨が高金利なのは、世界中の銀行が「この国には安い金利では貸したくない」と考えた結果なのです。つまり、高金利通貨を持つのはリスクが高い、というわけですね。この点については別の機会に詳述しましょう。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、わかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合や、厳密さが若干犠牲になっている部分があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義氏の「人生100年時代」を生きる資産管理・資産形成術

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