
コロナ禍の影響で行動が制限される状況下で、急速に広がりを見せているのが「ヘルスツーリズム」です。これは、健康増進や維持に役立つメニューを、旅行を通じた非日常で楽しむといったもの。なかでもお勧めのメニューは「グリーンエクササイズ」。手軽でありながら、心身にもたらす効果は絶大です。本記事では、リゾート宿泊施設等のコンサルティング会社社長が、ゲストとして施設を使い倒す楽しみ方のほか、宿泊施設経営者への集客のヒントを提案します。
閉塞感に苦しむ顧客の心をつかむ、新しいトレンド
新型コロナウイルスの蔓延によって、従来型のインバウンドを狙った集客戦略がまったく通用しなくなったのは、皆さんもご存じのとおりです。不動産市場、とくに宿泊施設のオーナーは、これまでと異なる集客戦略を考える必要があります。
とはいえ、3密を避けながら地元の方が近場で過ごす「マイクロツーリズム」以外にも、さまざまな旅行形態が考えられます。
本記事で紹介するのは、「ヘルスツーリズム」という、少し変わった新しい旅行スタイルです。あまり聞き慣れないかもしれませんが、自宅勤務や自粛などで閉塞感を感じているユーザーの心を掴むのに十分な、新たなトレンドとなるものです。
旅をきっかけに、健康増進・維持・回復・疾病予防
ヘルスツーリズムとは、「科学的根拠に基づく健康増進を理念に、旅をきっかけに健康増進・維持・回復・疾病予防に寄与する」ものと定義されていいます(NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構より)。
種類は豊富で、「エステ&マッサージ旅行」「禁煙定着訓練旅行」「温泉療養旅行」をはじめとした、さまざまなジャンルが存在します。テレワークによる過労や、自粛疲れといった新たな健康問題が増えているなか、リフレッシュと健康増進を両立できるヘルスツーリズムは大いに注目されているのです。
なかでも「グリーンエクササイズ」と呼ばれる健康増進法は、手軽で参加者を選びませんが、リフレッシュ効果による満足度が高いのが特徴です。参加者としてはもちろんですが、宿泊施設経営者が集客に活用するにも最適だといえます。下記に具体的な内容を説明しましょう。
「グリーンエクササイズ」とは、自然のなかで行う運動全般を意味し、大きな特徴として「日常生活の悩みごとから離れ、生命とのつながりを強く感じる」ことがあるとされています。屋外でのびのびと過ごすことで、緊張続きでささくれだった気分を、マイルドにする効果もあります。

韓国では、うつ病を抱える中年の患者たちに対し、週一回の認知行動法のセラピーを受ける前に、木々や高原植物の豊富な樹木園で散歩をさせてみるという実験が行われました。その結果、散歩をしなかった患者に比べ、3倍以上の抗うつ効果があったとされています(参考:Psychiatry Investigation 6, no. 4〈2009〉: 245–54.)。
単純な運動であっても、自然の中や自然を見ながら行うことで、精神的にも肉体的にも高い効果があるのです。
グリーンエクササイズには、ウォーキングやジョギング、ヨガといった簡単なものから、カウンセリングしてオリジナルのエクササイズメニューを組み、食事までもカスタマイズするような、手の込んだ内容のものもあります。
ゲストハウスやホテルの場合は、いくら宿泊客とはいえ、すべて自分の思った通りに過ごすことはできませんが、宿泊施設を一棟丸ごと貸し切れば、3密を避けながら、好きなときに好きなように、空間を広々と使うことが可能です。たとえば家族や親しい友人同士、あるいは大学のサークル仲間との宿泊と、グリーンエクササイズと掛け合わせることで、より多様な楽しみ方ができるでしょう。
宿泊客にとっても経営者にとっても、メリットは大きい
旅館を借り切るというと、思わず請求金額が心配になるかもしれませんが、家族や友人同士の宿泊にちょうどいい価格帯で、しかもゆったりとした広さのある「一棟貸し切り旅館」というものがあります。興味のある方は、ぜひ探してみていただきたいと思います。
グリーンエクササイズを気ままに楽しむには、そんな一棟貸し切り旅館がお勧めです。借りる旅館は、できればテラスや縁側など自然が視界に入る設計の、自然を感じられる作りの建物を選びましょう。予約サイトの写真でもある程度は見当がつきますが、不明点は直接施設に問い合わせたり、口コミサイトを読むのも参考になります。

地方都市やリゾート地の宿泊施設経営者にとっても、グリーンエクササイズは集客を見込める魅力的なプランになるといえます。過ごしやすい季節へと向かうこのタイミングは、なおのこと適しているでしょう。特別なメニューの打ち出しは必要なく、ウォーキングに適した場所や、ヨガなどをやる広いスペースの提供ができれば、まずは十分だからです。
アメニティにヨガマットや腹筋ローラーなどをつけるといった工夫もあると、なおいいでしょう。運動習慣を持っていても、旅先にまでエクササイズに必要なアイテムを持ち込む方は多くありません。予約サイトなどに詳細を明記しておけば、他施設とのちょっとした差別化も図れます。
宿泊施設がグリーンエクササイズを本格的に導入する場合、運動設備への投資を行えば、確実に顧客の満足度をあげることができ、なおかつターゲット層も広がります。地元住民しか知りえない、快適なランニングコースといったオリジナルの情報の提供で、付加価値をあげることも可能です。
ヘルスツーリズムに関心がある方のなかには、ジョギングやウォーキングが目的のゲストも多いのです。もちろん、観光名所や有名なスポットが目的の方もいますが、地元ならではの隠れた名所や散歩道を知りたいというニーズは根強いものです。
温泉旅行といった従来の旅行スタイルも、見せ方次第ではヘルスツーリズムとしての打ち出しは十分可能です。コロナの影響で売上が減少した宿泊施設も、自粛ストレスの解消や、衛生面の不安の払しょくなど、新たなニーズに目を向けることで、現実的な集客戦略を立てられると思います。
浅見清夏
ハウスバード株式会社 代表取締役