本記事では筑波こどものこころクリニック院長/小児科医の鈴木直光氏の書籍『新訂版 発達障がいに困っている人びと』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、「こころの問題」についてひも解いていきます。

「お母さんが仕事大変だから、僕は薬いらないよ」

高校生以上の思春期発達障がいの人びとにとって2つの壁があります。診療科選択の壁と経済的な壁です。

 

わが国においては、一般的には中学生までは小児科で扱いますが、高校生以上になると (心療)内科や精神科に回されてしまいます。環境の変化に弱い発達障がいの子は主治医が変わることや、病院が変わることを好みません。

 

しかし、発達障がいに困っている人びとは、自分で次の行き場所を探さなければならないのです。一般的には小児科医と精神科医とは連携できていないからです。小児科医と精神科医とでは扱う疾患が全然違います。小児科医以上に、発達障がいに理解のある精神科医はまだ少ないのです。

 

小児科医と成人精神科医の間には、児童精神科医がいますが、全国でも数えるほどしかいないのが現実です。この診療科選択の壁で継続診療を諦め、drop outしてしまい、「発達障がい診療難民」と化してしまうケースが多いのです。

 

更に、経済的な面でも壁があります。高校生になると「マル福(
医療福祉費支給制度)」がなくなる自治体が多く、無料だった医療費が3割の自己負担となるのです。

 

ある中学生は、「お母さんが仕事大変だから、僕は薬いらないよ」と、親のことを気遣って断薬しました。

 

本当は、まだADHD治療が必要なのに、きちんとした治療が受けられない思春期の子たちが大勢います。せめて高校を卒業する18歳までは「マル福」を延長するなど各自治体で配慮して欲しいと思います。

 

近年、大雨や強い地震による災害が多くみられます。震災後によく問題になるのは、発達障がいの子たちの避難所です。大半の親は周囲を気遣って避難所には行かず、車の中で過ごしているようです。体育館のような場所は天井が高いため音が響き、周囲が丸見えの場所には適さないという理由等からです。

 

教会やお寺など宗教関連の場所が比較的受け入れてくれていますが、本来なら自治体の保健所や福祉センターなど、発達障がいに理解のある専門職のいる場所がすべて「福祉避難所」として受け入れなければならないと思います。

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    幻冬舎メディアコンサルティング

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