コロナショックの影響により、今やあらゆる会社が「倒産予備軍」だ。ウィズコロナ、そしてアフターコロナの時代を生き残るため、相応の経営戦略を早急に打ち出す必要がある。本記事では、企業の成長戦略の立案のほか、多数のM&Aコンサルティングを手がけてきた筆者が、統計データや企業決算書を駆使しつつ、不穏な情勢からチャンスを掴みだす「勝ち残りの方策」を考察する。※本連載は、経営コンサルタントの森泰一郎氏の書籍『アフターコロナの経営戦略』(翔泳社)より一部を抜粋・再編集したものです。

IT活用度を売上・コストから再確認

人口動態の次に、ドラッカーが3番目に指摘した「他の産業や他の国、他の市場の変化」と、4番目に指摘した「産業構造の変化」について見ていこう。

 

リーマンショック後に大きく変化したのは、IT業界の発展だろう。内閣府が発表した『令和元年度 年次経済財政報告』では、「Society5.0」(インターネット空間を活用して新しい価値やサービスが創出される狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に次ぐ5番目の社会)として、ECやシェアリングエコノミー、IoT、AI、キャッシュレスといった情報技術の革新が重要であることが示されている。

 

具体的にはどの程度の市場規模があるのか。経済産業省の『平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書』によると、EC市場はアベノミクスが起きた2010年に7.8兆円規模だったところから、2018年には18兆円まで実に10兆円以上も拡大している(下記図表2参照)。成長率も年々拡大しており、「ウィズコロナ」の世界では、さらに広がることが想定される。

 

単位:億円 出典:経済産業省『平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書』
[図表2]EC市場規模推移(2010~2019年) 単位:億円
出典:経済産業省『平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書』

 

一足先を行く中国の状況も、個人向けECの「タオバオ」や「suning.com」、共同購買プラットフォームの「ピンドゥオドゥオ」などのEC企業の売上げ・株価は上昇しており、ウェブセミナーは30万社が導入する「微吼(ウェイホウ)」がマーケットを押さえている。ちなみに、フードデリバリー最大手の「美団的評(びだんてんぴょう)」は自転車ライドシェアのmobikeを買収し、配達に関連する市場をすべて押さえる戦略を採っている。

 

したがって、「ウィズコロナ」の中で各企業は、自社のIT活用度を、売上面とコスト面(原価および販管費)の2つの方向から再点検する必要がある。

 

この動きは、既にいくつかの企業で見られている。たとえば、東日本大震災で被害を受けた製造業は、サプライチェーンの分断を避けるために、拠点間での設計図の電子化と、設計情報とノウハウの共有をBCP(事業継続計画)の中心に据えて取り組んでいる。実際に『2020年版 中小企業白書』によると、自然災害へのBCP対応は69.9%。感染症対策も23.2%の企業が対策済みとされている。

 

今後確実に起きる災害に備え、まだBCP対応をしていない30%の企業は、生産先や委託先の開拓、もしくは国内外の拠点間の再編も含め、「ウィズコロナ」の早期の段階から「アフターコロナ」を見据えた準備をしておく必要がある。

 

日本では、在庫情報や在庫の価値の把握がエクセルベースであったり、棚卸しのデータが年度末しか正確でない企業が少なくない。「ウィズコロナ」の世界を生き抜くために、コストダウンの施策を行う、さらに中小企業では、在庫の現金化を行うという提案がされても、全部調べ直したら途方もない時間とコストがかかると困っている経営者もいる。

 

そのような場合、各種の在庫・価格把握サービスを検討するのがひとつの解決策である。たとえば、ECサイトやインターネットモール上で自社の製品がいくらで売れているのかを把握していくツールとして、バリュース社が提供する「Price Search」がある。これを活用すれば、単純作業や店舗での価格調査の人手、感染リスクなどを減らしながら、自社製品の価格を把握することができる。他にも、在庫価値の把握や欠品、廃棄ロスの可能性の把握には、AIによる在庫の最適化を行うオークファン社の「zaicoban」が有用である。

 

これまでITを活用してサービス提供をしていなかった業界でも、コロナの拡大防止策としてIT化が求められる。たとえば、多くの飲食店が現在フードデリバリーへの対応、そして中食(なかしょく)との競争を強いられているが、今後もこの流れは続くだろう。ホテルでも「オンライン宿泊」という自宅からリモートで旅先の旅館へ泊まり、観光ができるサービスが登場するなど、今後もさまざまな動きが出てくると思われる。

 

話がやや脱線してしまったが、産業構造の変化という視点から見ると、今後もIT化という大きな波としての「ニューノーマル」は訪れる。むしろコロナショックによって、これまで進んでこなかった業務でもIT化が進み、さらなるIT化への対応を求められる。

求人倍率が10倍近くのIT産業…圧倒的高水準

最後に、ドラッカーが5番目に指摘した、「組織内部の変化」である。これは2番目に指摘した、「知識の領域の変化」とも強い関係があるため、まとめて検討する。

 

まず、組織内部で求められている人材の職種の変化を見てみよう。下記の図表3は、転職エージェントのパーソルが提供している「職種別の転職求人倍率」である。

 

出典:doda「転職求人倍率レポート(2020年5月)」
[図表3]職種別の転職求人倍率 出典:doda「転職求人倍率レポート(2020年5月)」

 

これを見ると、どのような職種、つまり知識やノウハウが求められているかがわかる。現在求められている職種としては、技術系(IT・通信)が10倍近い求人倍率と圧倒的に1位である。前述のように、ITサービスがすべての業界に広がる中で、優れたITサービスを作り出したり、活用したりすることは必須であり、それをつかさどるエンジニアは不可欠な存在である。この流れは、コロナウイルスが拡大した2020年4月以降にも継続されており、求人倍率は足下でも8.7倍と、全体と比べて極めて高い水準にある。

 

一方で、事務・アシスタント系や販売・サービス系、営業系などは、この6年間ほぼ横ばい状態にある。営業系は2020年4月度で前年同月比0.42倍も減少している。このことから、組織内部でも、営業よりも先にサービスをIT化させることが重要だと考えられていることがわかる。

 

1点気になるのは、ITエンジニアの高いニーズと比較して、クリエイティブ系のニーズが増えていないことである。確かに「ウィズコロナ」の世界では広告媒体などが減少することから、短期的にはクリエイティブ人材は必要ないようにも思える。

 

しかし、ウェブサービスが広がる中で、優れたサービスを設計できるクリエイティブ人材は必要不可欠な存在であるし、パッケージやロゴデザインなども企業のブランド価値を高めるために必要である。当面すぐに増員する必要はないかもしれないが、「ウィズコロナ」の世界を生き抜く上でのコストダウンの領域には入れるべきではないだろう。「アフターコロナ」の世界ではフリーランスが再び増加することも考えられ、優秀な人ほど再雇用できる見込みは高くないからである。

 

以上、組織の知識や内部の変化についても、IT関連のノウハウがより重要となることは明らかである。これまで、労働人口が減少する中で、単純作業に人手がかかっていた業界でも、コロナショックによって新しく生まれるITサービスが進展することで、カバーできることが多くなっていくことは間違いない。

 

 

 

森 泰一郎
森経営コンサルティング 代表

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