景気低迷、コロナ禍、少子高齢化・多死社会の到来…。悩み多き現代、心を健やかに保つには、周囲の人たちとの絆だけでなく「お互いを支える技術」が大切です。ここでは、医師として終末期医療、緩和ケアの第一線で活躍し、患者やその家族と深い信頼関係を築いてきた筆者が、相手に寄り添い信頼関係を深める対話術、「傾聴」を軸としたコミュニケーションスキルを紹介します。※本記事は、『傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める』(大和書房)から一部抜粋・再編集したものです。

傾聴するほど苦悩が深まる相手には要注意

④苦悩者が「パーソナリティ障害」の方の場合は深追いをしない

 

パーソナリティ障害とは、極端な思考・行動のかたよりがあるために社会への適応が困難になっている状態のことをいいます。パーソナリティ障害には様々な種類があり、例えば境界性パーソナリティ障害の場合は不安定な対人関係(ある人を理想化したりこき下ろしたりが顕著に移行する)や感情の調節困難、衝動的行動、強い不安などの症状を来します。

 

ただ、これも一般の方には眼前の苦悩者が「パーソナリティ障害」かどうかを判断するのは難しいと思います。精神系の医療者でなければ、医師でも判断は難しいものです。

 

しかし、自分の中の設定ラインをやはり遵守することで、通常の苦悩なのか、うつやパーソナリティ障害の苦悩なのかの見分けはつくかもしれません。つまり設定ラインを相手がどんどん越えてくる、あるいは自身が思っているレベルをはるかに上回る苦悩が絶えることなく出てくるような場合は、やはり専門家(精神科医など)の助力を求めるべきでしょう。通常の苦悩者は、拙著『傾聴力』で述べているような傾聴を行うことで、少しずつ自らの力を取り戻すはずです。しかし傾聴をすればするほど相手の苦悩がどんどん深くなる、というのは、その方の苦悩が通常の次元のものではないことを示しています。うつ病やパーソナリティ障害の場合の訴えは、そのような場合も少なくないですから、それで見分ける、というのは一つの方法です。

 

苦悩者の中にも一定の頻度でこういう方がいるでしょうし、職場の中にも同じように一定の頻度でこういう方がいることが多いですから、私も何度か打撃をこうむっています。「おかしい」と思ったら、まずは専門家に相談し、距離を置くしかありません。失敗すると援助者自身の人間関係を壊されてしまうからです。

 

以上のような4つのポイントに留意すれば、上手に撤退できると思います。くれぐれも無理はし過ぎないことです。参考になれば幸いです。
 

 

大津 秀一

早期緩和ケア外来専業クリニック院長

緩和医療専門医

 

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