グローバル社会を生き残る人材には、学習意欲やチャレンジ精神が不可欠です。しかし、それらを発揮するには、本人が「自己肯定感」をもっていなければなりません。開成中学校・高等学校の校長を9年間務めた筆者が、思春期の男の子の「自己肯定感」を高め、その子の能力を開花させる方法を紹介します。※本連載は、東京大学名誉教授の柳沢幸雄氏の著書『男の子の「自己肯定感」を高める育て方』(実務教育出版)より、一部を抜粋・再編集したものです。

わが子の比較対象は、常に「昔のわが子」であるべき

子育てにおいて、比較することはいけないと言われがちですが、それは比較の仕方が間違っているからです。たいていの場合、私たちは子どもを、兄弟、友達、過去の自分などと比べてしまうものです。このような比較が、お子さんにとってプラスになることはありません。

 

私は親御さんには、「子どもは垂直に比較してください」とお伝えしています。これは、その子自身の3日前、1ヵ月前、3ヵ月前、半年前、1年前と比較するやり方です。過去の状態と比較して、よくなった部分を具体的に褒めていきます。つまり比較対象は、常に過去のお子さん自身というわけです。

 

人間は千差万別ですから、成長の早さには凹凸があります。ある部分が早く成長しても、ある部分は遅いということは、普通にあるものです。幼い頃を振り返っても、立ち上がるのは早かったけど言葉は遅かった、文字を書くのは早かったけど計算は苦手だった、など違いがあったはずです。

激励するどころか劣等感をあおる「他人との比較」

私たちはともすると、優秀な兄弟や友達、いもしない理想の子どもと、わが子を比べてしまいます。それでは、子どもは苦しくなるばかり。比べるなら、過去のその子と比較して、前よりもよくなったところを見つけてあげてください。そうすればお子さん自身が自らの成長を確認でき、それが自己肯定感や自信につながってきます。

 

このことは、じつはみなさんやってきたことなのです。赤ちゃんのときには、「寝返りができるようになった!」「ハイハイできるようになった!」「つかまり立ちができるようになった!」など、お子さんの垂直の成長の中に喜びを見出していたはず。いつしかこの気持ちを忘れてしまい、他人との比較に躍起(やっき)になってしまっているのです。

 

たいていのお子さん自身、自分の苦手なことはイヤというほどわかっています。それを親にまで言われたのでは、気持ちの持っていきようがありません。足が遅い子に向かって、「お兄ちゃんはリレーの選手だったのに…」「お父さんは小学生の頃、いつもアンカーだった」などと話したところで、その子にとってなんのプラスにもならないどころか、自己肯定感を大きく下げるだけです。

 

その子自身、何も言われなくても、「足が遅い」ということに関するコンプレックスをイヤというほど感じています。わざわざ周りが、それを言葉にする必要があるでしょうか。

「伸びた部分」を「具体的に褒める」ことが重要

親ができることは、リレーの選手になれないことを嘆いたり、徒競走の順位を比較したりすることではなく、「去年より練習のタイムが上がってるね」などと、具体的に褒めることです。去年の100メートル走の記録をメモしておいて、それから何秒伸びたかなど、数字で伝えられるといいですね。

 

このように具体的に褒めると、子どもは容易に納得することができます。そのために必要なのは、お子さんのことをよく観察しておくこと。そうしなければ、小さな成長(でも、子どもにとっては大きな努力の賜物〔たまもの〕)に気がつかないかもしれません。

 

自己肯定感や自信をつけさせるために必要なのは、その子を垂直に比較し、向上している部分を見つけて、具体的に褒めることなのです。

 


柳沢 幸雄

東京大学 名誉教授

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