「元ヤンキーだったのに東大に入った」「お笑い芸人なのに東大に入った」…このような珍しい話に惹かれる人は少なくないでしょう。中には、その成功体験を自分自身で再現するために詳しく知りたがる人もいるはずです。しかし、これらの話は一体どこまで参考になるのでしょうか? ※本連載は、公益社団法人子どもの発達科学研究所・主席研究員の和久田学氏の著書『科学的に考える子育て エビデンスに基づく10の真実』(緑書房)より一部を抜粋・再編集したものです。

「東大に合格した元ヤンキー」の話が役立たないワケ

では、東大に合格した人の話はどうでしょうか。東大に合格するなんて十分にレアですごいことだから聞いてみたいという人もいるでしょうし、東大の合格者なんて毎年3000人くらいいるんだからそんなに珍しくない、と考える人もいるかもしれません。

 

ただし「中学時代は成績が悪かったのに東大に入った」とか「元ヤンキーだったのに東大に入った」とか「お笑い芸人なのに東大に入った」など、レア度が高まってくると、急に興味がわいてくるのではないでしょうか。

 

ですが、忘れないでください。これらはすべてケーススタディーです。しかも「中学時代は成績が悪かったのに東大に合格した」なんていうことは、めったに起こりません。ケーススタディーは必要なことではありますが、非常に偏っている可能性もあるのです。

 

じつは「両親ともに東大出身の高学歴で、遺伝的に勉強が得意であることがわかっているが、何かの事情で中学時代は成績が良くなかった」とか、「すごく裕福な家で特別な家庭教師や塾に通わせる財力があった」という状況だったかもしれません。もちろんそうではない可能性もあるのですが、だったら単なる偶然でしょう。その人の勉強方法を聞いたとしても、そのことと東大合格の因果関係は不明です。むしろどうやったら幸運をつかむことができるのかを聞きたいところですが、もちろん運、不運といったことと科学は相性が良くありません。

人間は、ただの偶然に因果関係を見いだしがち

人には妙な癖があって、勝手に因果関係を結びつけてしまいがちです。例を挙げましょう。ある日、あなたが友人からプレゼントしてもらったネクタイをして出勤したとします。そのネクタイは好みではないので、ずっとしまってあったのですが、その日はなぜかしてみる気になったというわけです。そして、その日に何か良いことが起こるのです。簡単なことでかまいません。いつも不機嫌な上司が珍しく愛想が良くて話をよく聞いてくれたとか、そんなことだとしましょう。そのとき、あなたはどう思うでしょうか。たぶん「そのネクタイを身につけたこと」と「上司の愛想の良さ」を結びつけることはないのではないでしょうか。

 

しかしまた別のある日、同じようなことが起こったとします。その特定のネクタイをした日に、また上司の愛想が良かった…。そうでなくても、特定のネクタイをしていた日に限って、誰かにやさしい言葉をかけてもらったとか、前から欲しいと思っていた本がたまたま手に入ったとか、何か良いことが起こるのです。そして、そのようなことが続いたら、あなたはどう思うでしょうか。

 

客観的に考えると、「特定のネクタイをしたこと」と「良い出来事」に因果関係があるはずがありません。どう考えても偶然です。でも、いったんその関係が気になり始めると、「特定のネクタイ」と「良い出来事」に何か特別な関係があるように感じられてきます。ここで「確証バイアス」が起こります。するとたいしたことでなくても、「特定のネクタイ」をしたときは、「このネクタイのおかげでいいことが起こったんだ」と意識化されていきます。

 

こういうことが「中学時代は成績が悪かったのに東大に入った」という経験談にも起こりますし、自分が誰かに語る経験談にも入ってきます。特定の勉強法だけが東大に入ったことに関係しているわけではないのに、そこだけが強調されてしまう。もしくは特定の勉強法は(特定のネクタイのように)じつはまったく意味がなかったのにもかかわらず、そのように信じ込んでしまった、などということが起こりかねないのです。

 

経験談や経験則はおもしろいのですが、そこから勝手に因果関係を見いだすのは危険であることを覚えておくべきでしょう。

 

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和久田 学

公益社団法人子どもの発達科学研究所 主席研究員

大阪大学大学院連合小児発達科学研究科 特任講師

 

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