いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

老人ホームの評価はきわめて個別性が高い

私は仕事柄、多くの有料老人ホームへ入居した高齢者か、その家族の話を聞いています。さらに、多くの有料老人ホームの職員とも話をしています。その中で一番強く感じていることは、入居者に一番人気があるホームが悪口も一番多いという事実です。つまり、有料老人ホームの評価とは、きわめて個別性が高く、その時に抱えている個人の事情により評価は大きく変わる、ということです。私の介護職員、施設長としての経験から申し上げると、入居者のホームに対する評価は、猫の目のように日々変わり一定はしない、ということなのです。

 

具体的な例で説明をしていきましょう。食事の美味しい、不味いは、人それぞれです。味自体の問題もさることながら、その時の気分や体調によっても大きく違ってきます。さらに、正しい判定をするのであれば、毎月の食費にかかる費用を知らなければなりません。多くの有料老人ホームの月額の食費は、5万円から6万円が多いのですが、中には3万円台のホームも7万円以上するホームもあります。月額3万円台のホームの食事と7万円以上するホームの食事を比べても、何の意味もありません。重要なことは、この金額ならこのクオリティーである、という理解と評価です。

 

私の知っている費用の安い老人ホームでは、おかずにサバやイワシの缶詰めを温めるだけで出していますが、誰も食事が不味いなどと文句は出ないそうです。自身が負担している金額相応の食事だからです。

 

さらに、給食業者がどこの会社なのか?ということを気にする相談者もいますが、これもまったく無意味な心配です。多くの有料老人ホームの場合、食事は専門の給食事業者に委託しているケースが、まだまだ多いはずです。当然、給食事業者も大手有名企業から零細企業まで多種多様にありますが、会社の名前や規模で美味しい、不味いはまったくありません。

 

よく実態を知らない介護職員がC会社は不味いとか、D会社は美味しいとかと評論をしていますが、これもまったく当てになりません。自身が経験したごく一部のことをすべてだと勘違いして美味いとか不味いとか言っているにすぎません。食事が美味しいか不味いかは、会社の規模や知名度ではなく、実際にそこで作っている調理人の能力や意識の高さだけで決まります。意識が高く能力の質が高い調理人は、同じ食材を使っても、ひと手間かけて作ってくれるので美味しいものができ上がります。温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、そして食事をする相手の好みや嗜好をおもんぱかって食事を作るので、当然美味しくでき上がるのです。つまり、人次第であり、この人が替われば、味も変わるということになってしまうのです。

 

つまり、老人ホームの全体像を理解せず、たまたまその時の出来事を自分の感情だけで評価するということが、素人評価の怖いところです。

 

さらに、老人ホームの提供しているサービスの場合、ある人には必要なサービスであっても他の人には不要なサービスになることも多々あります。入居者の身体の状態や家族の立場などにより、多くの老人ホームに求められていることは、個別の事情にどう対処するかということです。したがって、親戚のおじいちゃんにとってはダメなホームだとしても、あなたのお父さんにとっては最高のホームになることは、そう珍しいことではないのです。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

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