何度もブームを繰り返し、今や生活に定着した感のあるワイン。一方、欧米に目を向けると、ワインは株式や債券と同じように投資対象として人気を高めているという。本連載では、ワイン研究の第一線で活躍する堀賢一氏が、ワインマーケットの現状と今後の見通しについて解説する。今回は、ワインのブランドはどのように守られているのか、みていこう。

高樹齢のワインの樹ほど、高品質のワインを生み出す

■樹齢

ワインのラベルにときどき、フランス語で“VieillesVignes”とか英語で“OldVines”といった単語を見かけることがありますが、これはどちらも「高樹齢のブドウ樹の果実から醸造されたワイン」であることを示しています。こうした表示が行われるのは、一般に「高樹齢のブドウ樹はより高品質なワインを生み出す」と考えられているからです。

 

ブドウ樹は生育環境によっては200年を超えて生き、果実を生らせることが可能ですが、樹齢が上がるにつれて果実の収量が激減するため、経済的な理由から、日本での小売価格が1,000円未満程度の、商業的なワインを生産するブドウ畑では通常、樹齢20年程度でブドウ樹を引き抜き、新しいものに植え替えています。同じ畑に植えられた同じブドウ品種であっても、樹齢10年のブドウ樹の赤ワインと樹齢50年のものを比べると違いは明瞭で、樹齢が高いものの方が濃い色合いで、味わいも凝縮しています。

 

ドメーヌ・コント・ジョルジュ・ド・ヴォギュエはブルゴーニュを代表する生産者のひとつですが、赤ワインで有名な特級畑ミュジニーで、白ワインも醸造する唯一のドメーヌです。ミュジニーの畑の斜面上部の0.65haに植えられたシャルドネは、1986年から1997年にかけて4回にわたって植え替えが行われたのですが、最後に残った高樹齢のシャルドネの区画は1992年の収穫後に引き抜かれ、その後このワインは「ミュジニー・ブラン」(グラン・クリュ)から「ブルゴーニュ・ブラン」(ジェネリック)に格下げされました。樹齢が上がって酒質がドメーヌの基準に達し、再びミュジニー・ブランを名乗るようになったのは、2015年ヴィンテージからです。

 

ヴォギュエではミュジニー、ボンヌ・マール、シャンボール・ミュジニー・レザムルーズ、シャンボール・ミュジニー・プルミエ・クリュと村名のシャンボール・ミュジニーの5種類の赤ワインを瓶詰めしているのですが、シャンボール・ミュジニー・プルミエ・クリュに用いられるブドウの大部分は、特級畑ミュジニーの、樹齢が25年以下のものが格下げされて使われています。

 

ドメーヌ・ド・ラルロは、フランスの大手保険会社であるアクサによって設立されたワイナリーで、同社からの潤沢な資金により、1987年設立という短い歴史にもかかわらず、ブルゴーニュを代表する生産者に育ちつつあります。ドメーヌ・ド・ラルロが単独所有するニュイ・サン・ジョルジュ村の一級畑のクロ・ド・ラルロには、高樹齢のブドウ樹と若いブドウ樹が混在しています。

 

品質にこだわりをみせるドメーヌ・ド・ラルロでは、クロ・ド・ラルロのピノ・ノワールが植えられた2haの区画を樹齢によって3分割し、1998年から2000年にかけて植樹されたブドウ樹由来のワインを村名の「ニュイ・サン・ジョルジュ」に格下げしています。樹齢60年を超えるピノ・ノワールの区画のワインを本来の「クロ・ド・ラルロプルミエ・クリュ」として瓶詰めする一方、樹齢60年に満たないものは畑名を入れずに「ニュイ・サン・ジョルジュプルミエ・クリュ」として出荷しています。これら3つのワインには、樹齢による凝縮味の違いが如実に現れています。

 

樹齢によってワインの品質に差が生じる(※画像はイメージです/PIXTA)
樹齢によってワインの品質に差が生じる(※画像はイメージです/PIXTA)

 

■二番果(グラピラージュ)

1991年4月21日未明にヨーロッパを襲った寒波によって、すでに発芽していたボルドーのブドウ畑は壊滅的な被害を受けました。一番芽の大半が壊死した後、ブドウ樹は生き残るために二番芽を発展させたので、ほとんどの畑では生き残った一番芽と二番芽が混在する状態となりました。一般に、二番芽に生った果実は一番芽からのものよりも成熟が遅れ、糖度も十分に上がらないことが多いため、シャトー・オー・ブリオンではヴェレゾン(果粒の色づき期)の時点でマーキングを行って、収穫時に一番果と二番果が混ざらないようにしました。一番果と二番果を別々に醸造したところ、ワインの質に大きな差がみられたため、二番果のワインがシャトー・ワインに用いられることはありませんでした。

 

ボルドー系品種ではあまり見られないものの、ピノ・ノワールやマスカット系のブドウ品種では、樹勢により、副梢*2にも結実することがあります。こうした二番果は一番果と養分を争い、一番果の成熟を遅らせてしまうため、高品質を追い求めるブルゴーニュのドメーヌの多くは通常、二番果を間引きします。ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)では1999年ヴィンテージで実験的に、ロマネ・コンティ以外の畑で二番果(グラピラージュ)を間引きせずに残し、収穫してみました。醸造してみたところ、予想よりもワインの質がよかったため、ヴォーヌ・ロマネ・プルミエ・クリュとして出荷することにしました。ブルゴーニュのピノ・ノワールの場合、二番果は通常、一番果よりも6~8週間遅れて成熟します。

 

*2越冬した芽から出てくるのが主枝で、その主枝の節から分枝して伸びてくるのが副梢。

 

前述のドメーヌ・ド・ラルロでは1990年代の一時期、クロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュの畑を3分割し、樹齢の低いブドウ樹のワインを格下げする一方、二番果も別に収穫して醸造し、「ニュイ・サン・ジョルジュキュヴェ・グラピラージュ」として瓶詰めしていました。ワインの色調は薄めで、青く、野菜っぽい香味から、果実の成熟度の低さが感じられました。

 

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