いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

今なら家族からおじいちゃんが嫌われないですむ

老人ホームへ入居を決断する理由はさまざまですが、私の知人のある方は、自身のお父さんを老人ホームに入れる決断をした理由を、次のように話してくれました。私は、子供が自身の親を老人ホームへ入居させる決断をする理由は、「困っているから」だと考えていましたが、そうではない理由もあったのだと痛感した出来事でした。

 

小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)
小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)

彼が自身の父親を老人ホームに入れる決断をした理由は、「今なら、まだ自分の家族からおじいちゃんが嫌われないですむから」というものでした。父親は、奥様に先立たれた後、関西で一人で暮らしていました。数年前から軽い認知症状を発症し、彼や彼のお子さんなどが毎月順番を決めて自宅を訪問していました。なんとか家族のサポートを受けながら独居生活を継続していました。が、最近では、警察の世話になることもあり、近隣から心配の声も上がり、結果彼の自宅へ引き取ることを決断しました。その後、認知症状は徐々に進みましたが、本人の強い希望もあり、介護事業者からの介護支援サービスは受けずに、家族のサポートで生活をしていました。

 

しかし、排泄が難しくなったタイミングで、彼はホームへ預ける決断をしました。

 

特に心を砕き悩んだことは、大学生の長女や長男にとって、おじいちゃんの、やさしく、そして経済的にも社会的にも尊敬できる立派な男性だったイメージを傷つけたくないことと、加齢に伴う人間の結末を子供たちにも理解してもらい、おじいちゃんの介護に対し協力をしてもらうことでした。考えた末に出した結論は、父親がまだなんとか体裁を保っているうちに、老人ホームへの入居を決断し、子供たちもたまには会いに行くという習慣をつける、ということでした。私が相談に乗っている時、何度も「子供たちが父親に笑顔で会いに行ける環境を作りたい」と言っていたことを今でも忘れることはできません。

 

ともすると、姥捨て山と勘違いされる老人ホームですが、比較的元気なうちに入居をするということは、このような家族の想いを実現するために一定の役割を持っているのです。

 

もちろん、このケースは、経済的に豊かだからこそ可能だった話です。さらに、高齢期に起きる認知症に対して直面せずに、その実態から目を背け、元気だったころの理想の父親像を見ているというケースなので、万人に勧められる介護かどうかはわかりません。しかし、そのような個人的な事情も含めて、介護とは本来個別性があり、個人の立場、状況などを鑑み、「こうあるべき」ということではなく「こうでよい」という観点で各自がフリーハンドで考えればよいのではないでしょうか。十人十色。これが介護の正しい考え方だと、私は考えます。
 

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

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