いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

病院の医師でも認知症の対応は難しい

私が介護職員だった頃、病院受診に同行した時の話です。入居者が老人ホーム内で転倒し、頭を強く打った可能性があるという看護師の判断で、病院受診を行ないました。診察に同席しようとした私は、病院側の看護師の判断で、隣りの待合室で待機させられました。彼は病院の看護師に付き添われ、診察室に入っていきます。

 

小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)
小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)

ちなみに彼は、一見普通の高齢者に見えますが、重度の認知症でした。ほどなくして、診察室から医師の怒鳴り声が聞こえてきます。挙句の果てには、「何を言っているのかまったくわからないじゃないか。話の通じない人間を病院に連れてくるなよ。帰ってもらえ」。

 

結局、病院の看護師から呼ばれた私は、彼に代わり医師に受診理由を説明し、事態を収拾することができました。

 

その時私が感じたことは、医療のプロである医師であっても、毎日多くの患者に接している看護師であっても、認知症の高齢者の取り扱いは難しい、ということでした。これは高齢者でも障害者でも赤ちゃんでも同じですが、本人と適切なコミュニケーションが取れない場合は、医療も無力だということです。もちろん、専門の医療従事者であれば方法はあるとは思いますが、一般的には難しいということを、この時私は嫌というほど痛感しました。

 

診察に介護職員の同席を拒否(個人情報の取り扱いをどうするのかという問題はあります)したり、声を荒らげるような失態を犯すということは、医療専門職としていかがなものなのでしょうか?もちろん、これは医療業界全体の問題ではなく、きわめて個別性の高い個人の問題なのかもしれません。

 

読者の皆さんは、このような介護の仕事に対し、本当に3Kのイメージを持たれるのでしょうか?けっして楽な仕事だとは言いませんが、世間で言われているほど、過酷な重労働でも、汚い仕事でもないと私は思っています。

 

介護の仕事とは、本来、体力を使う仕事というよりも、頭を使う仕事であり、気を遣う仕事。そして何より心を遣う仕事だと、私は思っています。

 

したがって、肉体的に大変だから仕事を辞めるとか、賃金が少ないから仕事を辞めるというのは、介護職員が仕事を辞める理由の本質ではありません。

 

介護職員が仕事を辞める本当の理由は、「自分のやりたい介護ができない」というジレンマゆえです。それを解決できない状態が長く続いた場合に辞めたくなるのだと、私は考えています。

たとえば、ある入居者は寂しがり屋。時間を見つけ、1分でもいいので話を聞いてあげると気分が落ち着きます。しかし、今の老人ホームの入居者の状態を冷静に考えた場合、今の介護職員配置数では、その人に対して関わる時間を十分に捻出することができません。そう考える介護職員にとっては、具体的な打開策が見えなければ、仕事や会社に対する不満は日々募 つの っていくだけです。

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誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

老人ホームに入ったほうがいいのか? 入るとすればどのホームがいいのか? そもそも老人ホームは種類が多すぎてどういう区別なのかわからない。お金をかければかけただけのことはあるのか? 老人ホームに合う人と合わない人が…

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