医療、警察、消防、製造等の「交代勤務」に従事する人の多くは、睡眠トラブルが原因の体調不良に悩んでいます。また、睡眠障害が原因の日本の経済損失は15兆円にものぼるとされ、事態は深刻です。解決の手立てはあるのでしょうか。※本記事は、スタンフォード大学医学部教授・西野精治氏の著書『スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣』(PHP研究所)より抜粋・再編集したものです。

従業員の健康管理への配慮は「組織体制を映す鏡」

さまざまな原因で生体リズムが一旦乱れ、脱同調が起こっても、生き物にはそれを再同調させる機能が備わっています。新しい環境になんとか順応しようとするのは、生体としてのホメオスタシス機能によるものです。

 

これをうまく利用する方法もあります。

 

たとえば、病院の看護職のような日勤・準夜勤・深夜勤の3交代制の場合、後ろにずらしていくほうが順応しやすいですから、日勤→準夜勤→深夜勤の順でシフトを組み、数日間で交代していくのは比較的同調させやすいのです。

 

しかし、製造業などに多い昼夜の2交代勤務を2週間サイクルで行うようなシフト勤務の場合、2週間ごとに脱同調を起こしている状態になります。

 

一方、夜勤を2日やって、休日をはさんで今度は日勤というように、短期間に大きく時間帯が変わるシフトは、身体は対応しにくいものの、脱同調の期間そのものは長くはありません。こういったシフトの形態による脱同調の程度、期間は数理モデル等で数量化し、心身ともに負担の少ないシフトを提案することも可能だと考えています。

 

もっとも、脱同調に対する許容性、順応性には、当然ながら個人差があります。人それぞれ、再同調のしやすさは異なります。

 

無理なシフトスケジュールをつづけていると、心身の負担となり、疲れやすく、ミスも生じやすくなります。シフト勤務者は、がん、糖尿病などの生活習慣病、うつなどの精神疾患のリスクが高まることは、厚生労働省の資料などにもはっきりあらわれています。

 

昨今、シフト勤務者の健康被害の問題がこれだけ取り上げられるようになっている状況のなかで、従業員の健康管理に対する配慮がどれだけなされているかは、その組織の体制を映し出す鏡のひとつともいえます。

 

交代勤務のために頑固な不眠症状がある際、睡眠薬を服用して眠ろうとする人もいると思いますが、私は薬の服用はあまりお勧めしません。睡眠薬は鎮静型の睡眠薬には種々の副作用があり、日常生活に及ぼす影響、QOL(クオリティ・オブ・ライフ、生活の質)への懸念が大きいからです。

 

 

西野 精治
スタンフォード大学 医学部精神科教授・医学博士・医師
スタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長
日本睡眠学会専門医、米国睡眠学会誌、「SLEEP」編集委員
日本睡眠学会誌、「Biological Rhythm and Sleep」編集委員

スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣

スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣

西野 精治

PHP研究所

睡眠とは単なる休息ではなく、あらゆる生命現象の基盤である―。世界最高峰といわれるスタンフォード大学睡眠生体リズム研究所所長が、「脳の老廃物を洗い流す『グリンパティック・システム』」などの睡眠研究の最前線から、「…

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