本記事では、自身の死後の事務作業を委託することのできる「死後事務委任契約」について取り上げます。*本記事は、佐野明彦氏の著作『妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策』(幻冬舎MC)から抜粋、再編集したものです

日ごろの行動が丸見えとなる「領収書」

人が亡くなるとさまざまな事務手続きが必要です。葬儀の手配では家族や親族、友人、関係者への通知をします。また役所への届出を行ったり、生命保険金の事務手続きのために書類を集めたりと遺族が行う事柄は多岐にわたります。

 

その他にも相続財産がどこにいくらあるのかを調べたり、貸借関係の整理を行ったりもします。多くの隠しごとはこの時に発覚してしまいます。

 

各種書類や領収書、メモなどから、社長が隠していた財産のことやこっそり買っていた趣味用品のこと、あるいは不適切な女性関係などがばれてしまうのです。実際に領収書一つあれば、その人の行動はかなり把握できてしまいます。

 

「○月○日にフレンチレストランで3万円分の食事をしていた」ということを示す領収書が出てきたら、「あの日は業界の飲み会だと言っていたのに!」ということになるかもしれません。

 

さらにインターネットで検索してお店の雰囲気がわかれば、どんな相手と行ったのかだいたいの見当は付くものです。筆者も税理士という仕事柄、多くの領収書を拝見します。食事に極端な偏りが見えるケースでは「お身体は大丈夫なのだろうか?」と心配になることもあります。まるでその人の日記を読んでいるようなものです。ですから隠しごとを守るためには、領収書は絶対に処分する必要があります。

 

しかしながら法人税法では「帳簿書類」とされており、基本的に7年間保存するよう定められています。税務処理のことを考えると、やみくもに処分するわけにはいかないのが悩ましいところです。その場合には、税理士と「帳簿書類」を保管してもらう契約を結んでおくといいでしょう。

「死後事務委任契約」とは?

これは死亡後に発生する事務作業について、元気なうちに委託する契約を結んでおくものです。行政書士や弁護士なども引き受けていますが、領収書などを預けることが多く、日ごろから頻繁に付き合っている税理士の方がオーナー社長にとっては何かと便利だと思います。

 

ただし、金融機関への対応などでは、弁護士しか受け付けない金融機関もあるようなので、その処理の内容によって使い分けた方がいいようです。死後事務委任契約で引き受けてもらえる業務の範囲は広く、遺言書ではカバーできないことも頼めるため便利です。

 

契約の中に各種書類の処分を入れておけば、適切に処理してもらえます。たとえば遺族にとって、悲しみの中で葬儀の手配や公的機関などへのさまざまな手続きをすることは大きな負担です。

 

死後事務委任契約を結んでおけば、そういった苦労を大きく軽減することができますし、委任された人が契約に基づいて間違いなく希望通りに手配してくれるので安心です。

遺族が賠償責任のケースも? 訴訟は生前に処理を

筆者が知っている隠しごとの中には「妻に訴訟を隠していた」というケースがあります。本業の経営は好調だったのですが、ちょっとした不手際から損害賠償を求めて取引先から訴えられたのです。

 

訴訟の中には判決が出るまでに何年もかかるものがあります。その間に社長が亡くなってしまうと、隠していた裁判のことが遺族にわかってしまいます。注意しておきたいのは、役員への代表訴訟など大きな金額の訴訟の場合です。

 

代表訴訟提起後、判決が確定する前に役員が亡くなった場合、遺族が賠償責任を負うこともあり得ます。役員賠償責任をカバーする保険に入るなどの対応が有効ですが、妻や子供たちのために、訴訟などの面倒ごとはできる限り生前に処理しておくか、和解できるよう譲歩するのがおすすめです。


訴訟と似たケースでは、所有する賃貸物件についての面倒なもめごとを隠している社長もいました。妻が反対する中、ワンルームマンションを一棟買いしたところ、賃料を支払わない入居者が何人かいたというお話でした。そのことが妻にばれないよう、本業からお金を融通して誤魔化していました。

 

ただこのケースも、相続時にはそのマンションを妻や子供たちが引き継ぐことになるので、賃料の滞納があることはわかってしまいますし、ご家族は家賃を支払わない入居者への対応に苦労することになります。

 

訴訟と同じく、こういったもめごとも生前にきちんと処理しておくことが大切です。具体的には、管理会社を有効に活用すれば良いでしょう。期限を切って回収するよう求め、もし回収できない時には管理会社を変えてみてもよいでしょう。

「不都合な遺品」の処分は、専門の整理業者に依頼

高価な腕時計やブランド品などは相続財産に勘定されますが、プライベートな品は家族が処分に困ることもあります。また、中には家族に存在を知られたくないものもあるでしょう。不適切な関係があった女性からのプレゼントや、日記、手紙類など、どんなそれなりに、死後、表に出てきてほしくないものを抱えているものです。

 

そういったものの処分は領収書などと同じく、事前に死後事務委任契約に含めておくと
よいでしょう。具体的には遺品整理を専門とする業者に処分させるよう指示しておけば、家族から不要な詮索を受けずに済みます。

 

隠れてマンションを借りていたり所有していたりする場合には、そこで過ごすための生活用品などもありますから、あらかじめ処分方法を指定しておくと安心です。

 

専門家と死後事務委任契約を結んでいない場合には、生前に契約しておいた業者に連絡をするよう友人に頼むのもよいでしょう。ただし、友人との間に守秘義務契約はありませんから、信頼できる人物を選ぶことが大切です。

 

やはり、お亡くなりになったという情報が入りやすい税理士に頼んでおくのが便利でしょう。

完全消去が難しい「デジタルデータ」の危険性とは?

隠しごとのある社長にとって、近年大きな問題となっているのが、デジタル情報の処理です。パソコンやスマートフォンなどの携帯端末は今や暮らしに欠かせないものとなっています。非常に便利で使い勝手のいいツールなので、私的な写真やデータの管理、通信のために使っている人はたくさんいます。

 

また、ブログを書いたりインターネット通販を利用したり、動画配信サービスを利用したりと、デジタルアイテムの利用範囲は中高年でも大きく広がっています。

 

もし、それが人目に触れたらどうでしょう? 誰かに送った私的なメールや、インターネット通販の購入履歴、その他サービスの利用履歴など、家族には絶対に知られたくないものがパソコンやスマートフォンに入っている人は多いと思われます。さらにデジタルデータの中には、隠しごとがばれるきっかけになりそうなものも数多くあります。

本連載は、2015年10月27日刊行の書籍『妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな男性も妻や家族に隠し続けていることの一つや二つはあるものです。妻からの理解が得にくいと思って秘密にしている趣味、誰にも存在を教えていない預金口座や現金、借金、あるいは愛人や隠し子、さらには彼らが住んでいる…

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