英国コロナ奇策「積極的な集団感染」が“科学的”だったワケ

新型コロナウイルスの猛威は衰えを知らず、第2波、第3波の到来も危惧される状況が続く。この時勢、パンデミック客船「ダイヤモンド・プリンセス」の実態を明らかにした神戸大学医学部附属病院感染症内科・岩田健太郎教授が提言する「病の存在」は、まさに今議論されるべきテーマと言えるだろう。本連載は、岩田健太郎氏の著書『感染症は実在しない』(集英社インターナショナル)から一部を抜粋した原稿です。

「コロナで一致団結」という同調圧力

岩田健太郎著『感染症は実在しない』(集英社インターナショナル)
岩田健太郎著『感染症は実在しない』(集英社インターナショナル)

英国を思い出してほしい。最初の方針には多数の異論が出て、批判が出た。日本であれば「みんな頑張ってるのに、ここは一致団結なのに、批判とかしてる場合じゃないだろ」と同調圧力がかかったであろう。そして英国は間違え続け、国民は多大な被害を受けたかもしれない。幸いにして英国は同調圧力の国ではなく、批判、議論は「前提」として受け入れられていた。異論が発生することを「現場を混乱させる」という理由で否定しなかった。そもそも異論が現場を混乱させるなどということは、プロの世界ではあってはならないのだ。

 

哲学者の鷲田清一先生は、コミュニケーションとは対話が終わったときに自分が変わる覚悟を持っている、そういう覚悟のもとで行われるもののことである、と述べている。日本におけるコミュニケーションの様相はそうではない。同調圧力に抗うのは「コミュ障」である。異論を唱えるのは「コミュ障」である。深夜に行われる討論番組で、参加者が番組の終わりに「おれ、意見を変えたよ」ということは起きない。彼らは議論をしているのではない。演説を繰り返しているだけなのである。だから、自説は一ミリも変わらない。本当に「コミュ障」なのはこうした同調圧力の奴隷なのではなかろうか。

 

弁証法とは時代がかった言葉だが、dialectics、対話という意味である。対話を通して自分が変わる覚悟ができて、初めて対話である。そこでアウフヘーベンが起き、議論は前進する。しかし、こうした古びたヘーゲル、マルクスの議論も日本では「形式」としてしか伝承されなかった。異論を唱えることそれ自体が「コミュ障」とみなされるのは、そのためである。

 

感染症の正体、微生物の正体。そうした哲学的議論は観念的議論ではなく、我々の今、ここの実生活に密着するリアルな議論である。が、日本社会はそもそも議論を許さない。あるのは「あちら」の側につくか、「こちら」の側につくかの党派的、属人的な足の引っ張り合いだけだ。「一貫性」はその属人性における一貫に過ぎず、要するに政府や厚労省の肩を持ちつづけるか、けなしつづけるか、という低いレベルでの一貫性でしかない。朝まで討論しても意見が変わらないのは当然だ。

 

本連載がそういう足の引っ張り合いを「バカバカしい」と悟る一助となれば、それだけで本連載が存在した価値はあると思っている。「感染症は実在しない」という命題に、「ばっかじゃない」と苦笑するか、「なにそれ ? 知りたい。教えて教えて」と自分が変わる奇貨とするかは、読者の「変わる覚悟」次第である。


岩田 健太郎
神戸大学医学研究科感染症内科 教授

神戸大学病院感染症内科 教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター医療リスクマネジメント分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学病院感染症内科診療科長。著書に『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)、『感染症は実在しない』(インターナショナル新書)、『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』(光文社新書)など多数。

著者紹介

連載「コロナは実在するのか」…感染症の第一人者が語る「病の存在論」

感染症は実在しない

感染症は実在しない

岩田 健太郎

集英社インターナショナル

インフルエンザは実在しない!生活習慣病も、がんも実在しない!新型コロナウイルスに汚染されたクルーズ船の実態を告発した、感染症学の第一人者が語る「病の存在論」。検査やデータにこだわるがあまり、人を治すことを忘れてし…

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