政府提唱の「最低賃金引上げ施策」が日本経済をダメにするワケ

長引くコロナ不況を見据え、政府は最低賃金の引き上げを検討している模様です。しかし「弱者救済」の施策は必ずしも奏功するとは限らず、かえって経済の足を引っ張ることもあるのです。どうしてでしょうか? 経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家の塚崎公義氏が、明快に読み解いていきます。

この状況下での「最低賃金引上げ」は失業リスクに直結

経済学の父、アダム・スミスは、経済に関しては政府が介入すべきでなく、「神の見えざる手」に任せるべきだといいました。需要と供給の一致するところに価格が決まるべきだ、というわけです。この価格を「均衡価格」と呼びます。

 

賃金についても同じく、労働力の需要と供給が一致するところに金額を定めるべきであり、その賃金を「均衡賃金」と呼びます。賃金が均衡賃金であれば、原則として失業も労働力不足も生じないはずです。

 

コロナウイルス感染症が拡大する前の「労働力不足の時代」には、均衡賃金が高かったので、最低賃金が上がっても失業は生じませんでした。しかし、いまは当時と比べて労働者を雇いたい企業が減っているため、均衡賃金が低下しています。

 

したがって、コロナ不況前は妥当であった最低賃金が、いまでは均衡賃金を上回っていると考えられます。そうなると、需要と供給が一致する賃金が実現できず、失業が増加してしまうはずです。均衡賃金が下がったら、それに応じて最低賃金も引き下げなければならないのです。

 

最低賃金を引き下げれば、「アルバイトが安く雇えるならば大勢雇いたい」という会社が求人を増やすため、失業者は減っていくと期待するわけですね。

 

最低賃金の引き下げこそ、失業者を減らす
最低賃金の引き下げこそ、失業者を減らす(※写真はイメージです/PIXTA)

 

失業が生じる原因として、名目賃金(所定内給与)が低下しにくいということがいわれます。労働者は給料が下がることを極端に嫌うため、企業経営者は「賃金を下げられないなら、雇用を減らすしかない」と考える、というわけです。

 

これは正社員については当てはまるでしょうが、最低賃金が問題となるのはアルバイト等の非正規労働者の時給でしょうし、それに関しては、労働力需給を反映して比較的柔軟に上下するはずですから、本稿では気にしないことにしましょう。

 

ちなみに筆者は、コロナショック以前の記事『いつまでも「労働力不足」続く日本は、根本的な原因を知らない』にて最低賃金の引き上げを主張していました。しかし、客観情勢が変わったのですから、主張を変えるべきなのは当然だと思います。

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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