今の介護保険制度は変わらざるをえない
私が言いたいのは、老人ホームを含む高齢者介護業界の無条件の成長は、結局は「タコの足食い」状態であり、わが国の国力に大きく依存することになるということです。平たく言ってしまえば、国に元気があり、収入が多ければ問題はないと思いますが、そうでない場合は、高齢者の介護をするには若い世代の収入から「お金」を移動させる必要があります。その分、若い世代の所得が少なくなることが考えられます。
それが嫌な場合は、高齢者介護に使える国の予算は〇〇円しかないので、この予算の中で賄ってください、ということになります。大きく予算を削減された場合には、介護事業者の経営を直撃し、結果として儲からないから介護事業から撤退しようということになります。最終的には2000年以前の介護保険制度が無かった時代に戻るということになるのではないかと考えています。
つまり、高齢者介護とは、サービスである必要はなく「行政が行なう処分」「措置」として、社会にある必要最低限のセーフティーネットであればよいのだということです。国や地方自治体が整備するものは必要最低限にとどめ、よりよいサービスを求めたい者は、全額自己負担にて民間のサービスを受ければよい、と。東京オリンピック終了後の2020年以降、今の介護保険制度が大きく変わっていくことが避けられない高齢者介護業界。間違いなく、「介護の沙汰も金次第」になっていくものと、私は思っています。
月額20万円の老人ホームに入居した場合、実際にはどれほどの費用がかかるのでしょうか?老人ホームに入居している高齢者は、まず医療費がかかります。もちろん疾患によってまちまちですが、最低でも1カ月に1万5千円は見ておく必要があります。
次に、衛生費(オムツ等)がかかります。これも、利用頻度や利用方法によって違いはありますが、月額1万5千円程度はかかります。これだけで、別途3万円になります。さらに、介護保険報酬の自己負担分があります。仮に前出の要介護2で20万円だったとすると1割負担の入居者であれば2万円、2割負担であれば4万円が必要です。ここまでで別途5万円から7万円が、毎月老人ホームに支払う月額利用料金20万円とは別に必要になります。その他として、たばこや飲酒などの嗜好品費用や、たまには「外食でもしたい」「ホーム企画のレクリエーションに参加したい」「洋服や布団を新調しよう」ということも起きると思います。したがって、月額利用料20万円の老人ホームに入居をした場合、毎月最低でも25万円から27万円は必要であり、余裕を見れば30万円は欲しいところです。
その金額をどう捻出していくのでしょうか?
多くの高齢者は年金と預貯金とで捻出するということになります。単純計算で、年間360万円、仮に10年間生きたとすれば3600万円です。うち50%は年金で賄うとして、1800万円の余剰金は必要だと思います。
この資産はおそらく最低限の試算になります。現実には、さまざまな事件が起こり、もっとお金が必要になるのではないでしょうか。「備えあれば憂いなし」。やはり、「介護の沙汰も金次第」ということになるのです。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役