高齢化に伴い、終末医療や看取りについての議論が盛んに行われるようになりました。ほとんどの人は、住み慣れた自宅で、穏やかに最期を過ごすことを望みますが、実際には「理想は在宅死・在宅看取りだが、非現実的である」と諦める人がほとんどです。在宅療養の現実はどのようなものなのでしょうか。※本記事は『大切な親を家で看取るラクゆる介護』(幻冬舎MC)から抜粋・再編集したものです。

高齢者ほど「病院の医療=最善」とは限らないワケ

せっかく在宅医療を始めても、近年はご家族のほうが“病院的”な医療を求めるケースがあります。特に病院から退院して在宅に切り替えたときは、病院でしていたのと同じ治療を続けたいと、ご家族に要望されることがよくあります。

 

ご家族からすれば、「病院で受けていた治療を減らしたりやめたりすれば、また状態が悪くなるかもしれない」と心配なのだと思います。

 

しかし、病院で出されていた薬が強すぎて日中もぼんやりしてしまい、生活に支障が生じているようなときは、薬を減らすか種類を変えることもあります。高齢者のなかには、薬を減らしてかえって元気になる人もいるほどです。

 

また同じ年齢、同じ病気の人であっても、歩いて病院に通える人と要介護になり家で過ごす人とでは、薬の使い方も違ってきます。薬で血圧やコレステロール値を厳しく管理することが、かえって不利益になることもあるのです。

 

そもそも高齢者は、薬を分解し、体外に排出する肝臓・腎臓の働きが落ちており、薬の作用が強く出やすいものです。病院の医療では、そうした高齢者の特性が十分に考慮されていないことがあります。病院で行う医療をそのまま続けることがいつも最善とは限らないことを、知っておいてください。

「入院」に絶大な安心感を抱きがちな日本人だが…

また在宅で療養をしている間にも高齢者の状態は少しずつ変わります。発熱が続くこともありますし、食欲が落ちてきた、痰が増えて苦しそうなど、さまざまなことがあります。そういうときに、やはりご家族が「病院で治療をしたほうがいいのでは」「入院をさせたい」と訴えられることがよくあります。

 

こうしたご家族の不安があまりに強いと、在宅療養を続けられなくなるケースが少なくありません。

 

介護の経験の少ないご家族にとって、高齢者の状態が変わるたびに不安に襲われるのはしかたのないことです。ですが、高齢者ご本人が入院や積極的な治療を望んでいるのでない限り、そこで入院などを急がないでほしいと思います。

 

以前の記事『「家に帰りたい」余命宣告された男性…家族が下した最良の決断』でも述べたように、加齢による衰えが進んだときは、病院での治療で治るわけではありません。逆に入院によって状態が悪化するリスクもあります。在宅療養中に心配なことがあれば、まずは在宅医に相談をしてください。在宅医はこのまま自宅で対応できるか、病院と連携すべきか、医師としての意見を示します。

 

もし在宅医に相談しにくいようであれば、訪問看護師に相談をしてみましょう。訪問看護師は在宅医よりも高齢者やご家族と接する時間が長いですし、高齢者を看護と介護の両面から支えてくれる専門職です。

 

たとえば便が出にくいときは、訪問看護師が排泄のケアをすることができます。また高齢者は皮膚が乾燥して弱くなっており、床ずれをはじめ、皮膚のトラブルも起きやすいものです。訪問看護師が定期的に関わっていれば、そうした小さな異常にも早く気づいて対処ができます。

 

スコットランドのアバディーン市には、地域住民の診療や高齢者のケアを24時間体制で行う「コミュニティホスピタル」という施設があります。規模は決して大きくなく、平屋建てで20床程度です。ここでは、ジェネラルプラクティショナー(GP)と呼ばれる8名の医師たちが、グループ診療により約9000人もの地域住民を24時間体制で診ています。そして、GPから送り込まれた患者さんにナースプラクティショナーと呼ばれる看護師たちが、最期まで責任をもって対応します。ナースプラクティショナーは薬の処方箋やレントゲン検査のオーダーを出したりする権限をもっているため、医師の数が少なくてもこのような仕組みが成り立っているのです。

 

日本では、法律的に医師と看護師のできることにまだ差がありますが、在宅医療においては、訪問看護師がキーパーソンになるケースが多々あります。スコットランドの例のように、日本でもいずれは医師と看護師の職域の壁が低くなることを期待しています。介護をするご家族も、訪問看護師を上手に頼ってほしいと思います。

 

【ラクゆる介護のポイント②~⑩】については、次回以降に詳述します。

 

 

井上 雅樹

医療法人翔樹会 井上内科クリニック 院長

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