先祖代々の資産家で、手広く事業を展開する名家の当主は、長らく一緒に生活していた愛人がいました。男の子が生まれて認知もしていますが、年齢を重ねて相続が現実的になってくると、さまざまな思いが胸をよぎります。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

財産や会社を継がせたいのは「本家長男」のほう

Y田さんは60代後半で病が発覚し、入院・手術を余儀なくされました。このことがきっかけとなり、ようやく本宅に戻って家族と生活をするようになりました。大病したことから、妻や子どもたちの懇願もあり、いよいよ遺言書を作っておくことを決意したというわけです。

 

 

Y田さんは愛人の子をかわいがる一方で、本家を守るためには長男にY田家の跡取りとして財産や会社を継いでもらわなければならないと考えてきました。そのためには相続争いにならないように遺言が必要になると思い、相談できる先を探して筆者の事務所にたどり着いたとのことです。

 

Y田さんの個人財産は不動産が多く、会社の株もあります。そこで筆者は、配偶者の特例を活かしながら、長男に財産の多くを相続させるため、不動産と株などの財産を妻と長男が等分に相続することを提案しました。

 

Y田さんはその案に納得し、嫁いだ娘たちと亡長女の子どもたちにはそれぞれ現金を分与し、認知した子には、母親が住んでいる家や相当の金銭を贈与してきたため分与はなしという内容で遺言書を作成することにしました。

 

不平がでないように、娘たちや認知したもうひとりの息子には事前に理解を得ておき、さらに付言事項にも協力してもらいたい旨の心情を書き加えることも忘れませんでした。

 

「これでY田家の会社と不動産は長男に継承してもらえることになりました…」

 

遺言書が完成したあと、Y田さんは安堵の表情を浮かべ、独り言のように言葉をつぶやきました。

 

節税のため、妻には半分の財産分与をしましたが、妻もY田さんと同様の遺言を書く予定となっており、いまは作成時期を考えているところです。

複雑な事情があるのに「遺言書なし」のままでは…

Y田さんのようなケースでは、認知した子とそれ以外の相続人との間で、分割協議をしなければなりません。また、「跡継ぎになってほしい子がいる」「代襲相続人がいる」「婚外子がいる」といった事情が重なり複雑となっているため、遺言書の用意がなければ、相続人間で話がまとまらず、下手をすると泥沼の争いになることも考えられます。

 

認知した子と実子とは、戸籍上きょうだいであっても、感情面で受け入れられる人は多くありません。過去の話や余計な感情を引き出さないためには、「会わない」という選択も視野に入れる必要があるといえます。

 

また、過去の贈与(特別受益)は相続財産の対象となります。愛人となる女性には、住まいとなるマンションの贈与のほか、長年の生活費も渡し続け、婚外子となる子には本人の希望通り東京の有名私立大学に通わせて卒業までサポートしていることから、これらも考慮されることになります。

 

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

曽根 惠子

株式会社夢相続代表取締役

公認不動産コンサルティングマスター

相続対策専門士

 

本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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