新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

「テナント難民」とオフィスビルの空室率改善

大手町ビルはワンフロアが2147坪という超巨大ビルなのです。同じ階だからといって生半可な情報だけでのこのこやってきた私の大失敗でした。

 

大手町ビルは別格としても、こんな大規模ビルが次々誕生する東京のオフィス市場 は本当に大丈夫なのでしょうか。

 

先にも触れたように、東京のオフィス市場は現在絶好調。これから供給されるビルもその約7割が既存オフィスビルの建て替えによるものだから、ビルの床面積が飛躍的に増えることではないので、市場が十分に吸収してしまうだろう、というのが関係者の大方の見方です。

 

しかし、今の市場の状況を注意深く見ると、どうもあまり楽観はできないようなのです。

 

ポイントは「今後供給される予定のビルの多くが既存ビルの建て替え」であるという、まさにその部分です。都内のビルの多くが現在、建物の老朽化問題を抱えています。耐震性の確保はもとより、企業のBCP(災害などの際の事業継続計画)の確保や最新鋭設備の整備など、ビル業界もさまざまな課題を抱えています。そこで大規模修繕を行なうより、都心部の容積率アップを利用して建て替えようという話になっているのです。

 

建て替えるにあたっては当然、今入居しているテナントに対して立退料等を支払って退去してもらうことになります。

 

さて、退去を余儀なくされたテナントはどこに行くのでしょうか。当然、仕方がないので、別のビルの空室を探し出してそこに引っ越すことになります。するとそれまで空室を抱えていたビルの稼働率は改善することになります。

 

ここ数年で、都内の既存オフィスビルが建て替えにあたって、大量の「テナント難民」を生じさせているのです。難民の多くが既存ビルの空室に収まったために、既存ビルの空室率が大幅に改善する。このシナリオで今の市場の空室率を計算すると、実は、ここ数年における空室率の改善については、ほぼ説明ができてしまうのです。

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不動産で知る日本のこれから

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