世界的に超低金利時代へ突入している。そんな状況下、新型コロナウイルスの感染拡大で、事態はまさに「打つ手なし」。しかし、ここにきて注目されているのがMMT(現代貨幣理論)である。有識者から袋叩きにあい、さらにネット上でも支持派と否定派が議論を繰り広げている。MMTは救世主なのか、トンデモ理論なのか。本連載は、経済アナリストの森永康平氏の著書『MMTが日本を救う』(宝島社新書)を基に、MMTとはどんな理論なのかをわかりやすく解説していく。過去の著書には父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。

全ては2人の米女性から始まった「MMT世界大論争」

MMTに光を当てたのは2人の米国人女性だった。1人はアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)。2018年11月の米国中間選挙にて、 29歳で米国史上最年少の女性下院議員についた。名前の頭文字をとって「AOC」の愛称で知られる彼女は、ヒスパニック系であり、元バーテンダーという労働者階級出身の20代の女性が共和党の大物、ジョセフ・クラウリーを敗って史上最年少で当選したわけだから、米国中に衝撃を与えた。

 

彼女のツイッターアカウントは本連載の執筆時点(20年4月末時点)で685.4 万人ものフォロワーを抱えている。インスタグラムも436.8万フォロワーと非常に多いが、自身の考え方や活動内容をSNS上で発信するその姿は、いかにも若者の戦略といえよう。

 

なぜMMTの話をするのに彼女の説明をする必要があるのか。それは、彼女が掲げる政策とその財源にある。自らを「民主社会主義者」と自認する彼女は「国民皆保険制度の導入」や「グリーン・ニューディール政策」を公約として掲げている。

 

グリーン・ニューディール政策とは、かつてルーズベルト大統領が世界恐慌に対応するために行ったニューディール政策を、環境問題や貧富の格差という近代的な課題の下で行うという思想で、「温室効果ガス排出ゼロを目指す」や「送電網の構築・更新(スマートグリッド整備)」などが具体的な項目として挙げられている。これらの政策が実現できれば素晴らしいことだが、当然問題になるのはその財源だ。

 

グリーン・ニューディール政策を実現させるためには10年間で7兆ドル(約770兆円)以上が必要と言われている。彼女は正確な金額について言及していないが、30兆ドル必要だという指摘も見られる。ただでさえ、トランプ大統領が実施した減税や歳出増加の影響で、米国の財政赤字は4年連続で増加しており、19年会計年度(18年10月〜 19年9月)にほぼ1兆ドルに拡大し、 12年度以来の高水準となっている。更に莫大な財政出動などできるのか。

 

これに対してオカシオ=コルテスは、「ビジネスインサイダー」の取材で「グリーン・ニューディールを成功させる財源の創出方法は、富裕層課税などいくつもある」 と語っている。そして、「政府の赤字支出は良いことだ。グリーン・ニューディールを実現させるためには、財政黒字こそが経済にダメージを与えるとするMMTの考えを私たちの主要議論にする必要がある」と答えている。

 

なぜ若いオカシオ=コルテスがこれほどまでに大胆な考えを持てるのか。そこには1人の支援者がいた。それがもう1人の女性、経済学者のステファニー・ケルトン( Stephanie Kelton/ニューヨーク州立大学教授)だ。16年の米国大統領選の民主党予備選挙にて、若者の熱狂的な支持を集めてバーニー・サンダース上院議員が 台風の目となったことは記憶に新しいが、ケルトンはサンダースの経済ブレーンも務めていた。ケルトンはMMTの主唱者の1人としても知られている。

 

オカシオ=コルテスとケルトン。この2人の米国人女性がMMTに光を当て、世界的な論争を巻き起こしたのだ。

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MMTが日本を救う

MMTが日本を救う

森永 康平

宝島社新書

新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界経済が深刻な落ち込みを見せる中、世界各国でベーシックインカムや無制限の金融緩和など、財政政策や金融政策について大胆なものが求められ、実行されている。そんな未曾有の大混乱の最…

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