世界的に超低金利時代へ突入している。そんな状況下、新型コロナウイルスの感染拡大で、事態はまさに「打つ手なし」。しかし、ここにきて注目されているのがMMT(現代貨幣理論)である。有識者から袋叩きにあい、さらにネット上でも支持派と否定派が議論を繰り広げている。MMTは救世主なのか、トンデモ理論なのか。本連載は、経済アナリストの森永康平氏の著書『MMTが日本を救う』(宝島社新書)を基に、MMTとはどんな理論なのかをわかりやすく解説していく。過去の著書には父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。

「あげる」ではなく「貸してあげる」にひそむ罠

各国が3月中に大型財政出動の概要を発表したが、日本で発表されたのは4月に入ってからだった。日本政府は4月7日、特措法に基づく緊急事態宣言を発令したが、同日に緊急経済対策を閣議決定した。この経済対策は事業規模で108.2兆円とされ、GDPの約2割に該当する莫大な規模だと報じられた。安倍晋三首相も「諸外国と比べても相当思い切ったものだ」と述べている。

 

しかし、実態はそれほど大規模ではない。なぜなら、中身が「事業規模」だからだ。事業規模というのは政府が支出する金額以外にも、民間の金融機関が融資する額や、民間が負担する事業の額も含まれる。政府が負担するのは「財政支出」であり、この額を見てみると39.5兆円である。一気に108.2兆円の約37%まで減少したわけだが、この額の中には財政投融資という政府の財政資金が10兆円ほど含まれている。この10兆円のうち、日本政策金融公庫による融資が相当含まれている。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

要は「あげますよ」ではなく「貸してあげる」お金なのである。融資はもちろん将来の返済義務がある。借り入れのハードルが下がることで助かる企業が多いことは事実だが、GDPを押し上げるような政策とは言えない。また、昨年12月の経済対策の未執行分9.8兆円も繰り込まれていることなどを考えれば、新しく投入される財政資金は20兆円弱と想定できる。こう考えると、「GDPの約2割に該当する過去最大の108.2兆円」というインパクトの強い報道とは実態がかけ離れているのではないか。

 

リーマン・ショックの際は08年度の第一次補正予算で約1.8兆円、第二次補正予算で約4.8兆円、翌年度の第一次補正予算で約14.7兆円が措置されており、合計すると一般会計分のみで20兆円を超えた。単体ではリーマン・ショック時の財政出動よりも規模は大きいが、合計で見れば足りておらず、今後、追加の財政出動が起きなければおかしい数字といえる。

 

政府は今回の緊急経済対策を、感染症拡大の収束に目途がつくまでの「緊急支援フェーズ」と、そのあとの「V字回復フェーズ」の2段階で実施するとしており、政府が4月7日に発表した「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策〜国民の命と生活を守り抜き、経済再生へ〜」には「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」という項目があり、次のような記載がある。

 

今回の新型コロナウイルス感染症の影響により、売上等に甚大な打撃を被った観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテインメント事業を対象に、GoToキャンペーン(仮称)として、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束した後の一定期間に限定して、官民一体型の消費喚起キャンペーンを実施する。

 

たしかに、新型コロナウイルスの問題が収束した後に疲弊した経済を持ちなおさせるための財政出動は重要だ。しかし、今回の新型コロナウイルスによる景気悪化はこれまでのものとは違い、ブレーキとアクセルを同時に踏むような、非常に特殊で対応が難しいものである。だからこそ「将来」ではなく、スピード感をもって、全額を目先の対応に充てていくべきだ。将来のことも同時に対応したいということなら、もっと金額を出すべきだろう。

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MMTが日本を救う

MMTが日本を救う

森永 康平

宝島社新書

新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界経済が深刻な落ち込みを見せる中、世界各国でベーシックインカムや無制限の金融緩和など、財政政策や金融政策について大胆なものが求められ、実行されている。そんな未曾有の大混乱の最…

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