たとえば、「机に乗らないお約束」や「最後までがんばるお約束」ですが、この「お約束」は非常に曲者です。それは、本人が納得した約束でないことがしばしばあるからです。「お約束」をしたのに守れなかった、ということが繰り返されると、それはパターン化した行動になっていきます。つまり、「約束をする→それを破る」という図式ができあがってしまうのです。
そうすると、「約束をしたのにどうして守らないのか?」と叱ったり落胆したり、さらにもっと厳しくする必要があるのではないかと考えたり、悪循環に陥ります。「できなかった」という負のセルフイメージを子どもに与えてしまうことにもなります。
約束はお互いが納得してするものですので、幼い子どもには難しいことが多いです。発達障害の子どもであれば、それはなおさらでしょう。慎重に考えることが必要です。
子どもに「これができるようになってほしい」と願うとき、大人はそのターゲットとする課題を「集中的に訓練したほうが効果的だ」と考えがちです。それは、一面としては真実であり、繰り返し試行することで、ひとつずつスキルを身に付ける方法はあります。
しかし、幼児期の発達においては、日常のなかで様々なことを見聞きし、模倣を繰り返し、大人が注目していないうちに、あるスキルを「いつの間にか身に付けていた」ということが多くあります。障害による偏りのため、自然にスキルを身に付けることが難しい子どもでも、意識的に刺激を強化して届ける方法によって、「いつの間にかできる」発達を目指すことは可能です。
私たちが行う療育では、様々な課題をテンポよく行います。ことばの刺激であったり、巧緻性のための課題であったり、見る、聞くスキルを高める取り組みであったり、歌やカードやおもちゃが魔法のように先生の手から展開されていくのです。
先生は、子どもの反応を逃さず観察しながら、子どもにいま必要なのはインプットとしての刺激なのか、アウトプットする準備ができているのか、反応に合わせて課題を行います。幼児期に最適な働きかけは、「できないことを訓練」することではなく、適切なサポートによる「できた」の積み重ねだと考えているからです。
「楽しい!」「できた!」を繰り返しながら、「いま、できるようにならなければ」とストレスをかけられることなく、子どもたちが「いつの間にか」できるようになっていくのを見守ることも「支援」なのです。
有元 真紀
株式会社コペル
なぜ、今「児童発達支援事業」が求められているのか…
>>>>>>>>記事を読む<<<<<<<<