景気低迷、コロナ禍、少子高齢化・多死社会の到来…。悩み多き現代、心を健やかに保つには、周囲の人たちとの絆だけでなく「お互いを支える技術」が大切です。ここでは、医師として終末期医療、緩和ケアの第一線で活躍し、患者やその家族と深い信頼関係を築いてきた筆者が、相手に寄り添い信頼関係を深める対話術、「傾聴」を軸としたコミュニケーションスキルを紹介します。※本記事は、『傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める』(大和書房)から一部抜粋・再編集したものです。

「慎重に口にすべき言葉」を知っておこう

注意すべきは、「慎重に口にしなければいけない言葉」を安易に口走らないことです。

 

「あなたには、まだご主人がおられるから」

「大丈夫、きっとうまくいきますよ」


などと気休めの言葉を吐いてはいけない(J・W・ウォーデン『悲嘆カウンセリング』誠信書房)ですし、

 

「頑張ろう!」

「泣いてはだめ!」

「早く元気になってね!」

「私にはあなたの苦しみがよく理解できる」

「あなただけじゃない」

「もう立ち直れた?」

「時がすべてを癒すから大丈夫!」

「(突然の死だったので)長い間苦しまなくてよかったね」

 

などという言葉は死別体験者とのコミュニケーションを妨げる(アルフォンス・デーケン、柳田邦男『「突然の死」とグリーフケア』春秋社)とされています。

 

また私自身の経験でも、ご遺族の時間軸はそうではない人間のそれとまったく異なっていると感じます。例えば「四十九日が過ぎたのだから」「一年“も”経ったのだから」というような言葉も、容易に彼らを傷つけるので注意が必要です。ご遺族には、他の者と異なった時間が流れていると考えて接するべきでしょう。

 

さらにご遺族からの、現実感の希薄化、あるいは「忘れたい」「しかし忘れられない」(忘れたいと願えば願うほど、忘れられない)、さらに大切な存在を救えなかった自分への無力感・罪悪感の訴えはよく聞かれるものでもあります。

 

ゆえに「現実を見なければいけません」あるいは「もう忘れてしまえばいいじゃない」などの促しも不適当です。大切な人を亡くされた方は、もう十分に現実に直面しています。考えたくないと思えば思うほど、考え、忘れようと思えば思うほど、忘れられないものなのだと思います。

 

だから自らの言葉で紡いでいただくことはあっても、援助者のほうからの強い言葉でいたずらに直面化させたり、あるいは現実から遠ざけさせようとしたりしないのが良いでしょう。そして、「時が経てばきっと良くなる」という励ましではなく、「つらいね」「少しでも楽になると良いね」「いつでも私たちはそばにいるからね」と気持ちを支える言葉がもっともふさわしいのではないかと思います。

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傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

傾聴力 相手の心をひらき、信頼を深める

大津 秀一

大和書房

相手が元気になる「聴き方」。医療・介護現場のプロが必ず実践している、本当の「聴く力」とは? ●大切な人の悩み相談に真剣にこたえている ●自分なりに一生懸命アドバイスもしている なのに、相手が元気にならない……

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