新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

「しなやか」な住宅購入戦略とは

さて、同じように「これから世代」に属する別のBさん夫婦からの相談は、これからの時代を見据(みす)えた「しなやか」な住宅購入戦略だった。その内容をご紹介しよう。

 

私のもとを訪れたBさんは38歳。奥さまと一人娘の三人家族だ。Bさん夫妻は最初、Aさん夫妻と同様に新築マンションを探していたが、値段が高く、自分たちの予算に合う物件となると住戸面積も小さくなってしまい、決断できずにいた。

 

あまり大きな借金も背負いたくない、でもできれば自分の家は持ちたい、と言う。

 

そこで町の不動産屋に照会して中古物件を探したところ、彼らが希望するエリア内に築年数で20年たっている2世帯住宅があった。

 

築年数が古かったせいか値段はだいぶ安めだ。しかし最寄り駅には徒歩5分程度。周囲の環境も住宅地として申し分がない。近くにはちょっとした観光スポットもある。売主は従前、親子2世帯で暮らしていたのだが、息子さんご夫婦は海外に転勤、親御さんが亡くなり、相続するにあたって自分たちはもうこの家に住む予定がないために売りに出されていたものだった。

 

2世帯住宅の家の構造には、「同居型」と「分離型」の2種類がある。「同居型」は、キッチンや浴室などを共用として、階を分かれて暮らすスタイル。「分離型」は各世帯でキッチンや浴室を持ち、壁を隔てて暮らすものだ。この中古物件は、「分離型」とよばれるもので、1階と2階で別々の門扉、玄関を持ち、水回りもすべて分離されたものだった。

 

実は、2世帯住宅の中古物件は、売りにくいというのが不動産屋の間では定説だ。

 

中古マーケットで、親子で同時に家を探す人は少ないからだ。本件も案の定、当初の希望価格からはずいぶん値引きされていた。

 

そこで、Bさんに思い切って2世帯住宅を買われたらどうかとすすめてみた。価格は7500万円。

 

もちろんBさんには2世帯住宅を購入する意向はなかった。

 

しかし、ものは考えようだ。この物件の所在するエリアは、駅からも近く、賃貸マーケットでもまずまずの家賃が取れる。たとえば、この物件の2階部分にBさん一家が住み、1階を賃貸住宅として貸し出せば、現状のマーケットならば、家賃は月額で15万円以上は取れる。

 

Bさん夫妻が用意できる頭金は1000万円。Aさん夫妻のケースと同様に6500万円のローンが必要だ。 35年ローンであれば、返済額は月額16万円強、ボーナス時は60万円。年間返済額は280万円になる。

 

ところが、Bさんの場合はローンの返済を、同じ家に住む借家人からの家賃でそのほとんどを補うことができてしまうため、Bさんには実質の返済負担は発生しないことになる。

 

この仕組みを即座に理解したBさんは、この2世帯住宅の購入を決断した。

 

また、購入後数カ月で1階の賃貸部分も、3歳のお子さんを持つ同世代の夫婦に賃貸することができ、「計画どおり」になったとBさんは、ほくそ笑んでいる。

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不動産で知る日本のこれから

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牧野 知弘

祥伝社新書

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