新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

「クリーニング屋の跡地は要注意」は常識

ところが、実際の取引の経緯を見ると、東京ガスが土壌汚染対策として負担したのはわずか78億円にすぎず、契約ではそれ以上の瑕疵担保責任は負わない、というきわめて「特殊」な契約をしているようだ。実際に東京都は、土壌汚染対策として東京ガスからの対策費とは別に、508億円の負担をしているという。

 

さらにこの「特殊」な取引を行なうにあたって、石原慎太郎元知事は「瑕疵担保責任については知らなかった」という、ちょっと信じられない答弁をしている。

 

ちなみに、その後築地市場についても、多くの汚染物質の存在が明るみに出され、さあ築地も危ない、だから豊洲へ、みたいな相対論的な議論まで出現した。築地市場は駐留米軍のクリーニング施設があったというが、不動産屋から見れば、クリーニング屋の跡地は要注意というのは、きわめて「常識的」な知識である。

 

戦後の混乱の中で整備された築地市場が、現代ではあたりまえの土壌汚染対策などやっているわけがない。それを今さら持ち出して新市場と比較するのは、空しい議論にも映る。

 

瑞穂の國記念小学院の土地取引を、不動産屋の観点から見てみよう。

 

定期借地契約で契約し、それを土地売買に切り替えることについては、国有地の売買取引では異例かもしれないが、民間ではあくまでも交渉ベースの話だと考える。

 

問題は、この土地の中から出てきたとされる大量の産業廃棄物の取り扱いである。通常は産業廃棄物の存在等が判明した場合には、買主は売主に撤去させることを条件に土地の引き渡しを受けるのが「常識的」な取引である。また、通常は撤去費用は売主が持つことになる。

 

ところが、このケースではすでにいったん事業用定期借地契約を締結した後だったので、小学校建設に支障が出ないようにするために、撤去費用を売主である国が独自に見積もって売買金額から控除したという。これはちょっと「特殊」な取引に見える。

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不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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