夜間運転は不向き!?白内障「多焦点眼内レンズ」のデメリット

白内障の眼内レンズには「単焦点」と「多焦点」があり、どちらを挿入するかは自分のライフスタイルに合わせて選ぶことができます。手元も、中間も、遠方もはっきりと見えることから無条件で「多焦点眼内レンズ」を選択してしまう方も多いのですが、正しく理解できていなければ、想像と違う見え方になってしまったり、自分の目に合わなかったりすることがあります。今回は、『「見える」を取り戻す白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、ベストな眼内レンズを選ぶために知っておくべき「多焦点眼内レンズ」のデメリットを紹介します。

多焦点眼内レンズが持つ「デメリット」とは?

非常に優れた特性をもつ多焦点眼内レンズですが、デメリットを理解することも大切です。ベストマッチな眼内レンズを選ぶために、多焦点眼内レンズが持つデメリットをご紹介します。

 

①コントラストの低下

多焦点眼内レンズは、光エネルギーを奥行きの広い範囲に分布させるため、単焦点眼内レンズに比べるとコントラストが低下します。ただ、その程度はレンズによりさまざまで、ひとくくりに語ることはできません。なかには、単焦点眼内レンズと遜色ない、高いコントラストを持つ多焦点眼内レンズもいくつか存在します。

 

コントラストの低下は、通常の視力検査の視力には影響しません。もともと白内障が進みかなり視力低下がある方は、低いコントラストに脳が慣れているため、多焦点眼内レンズの見え方を、はっきり見えると感じます。すなわち、脳はコントラストの改善と明視域の拡大の両方を喜びます。

 

しかし老眼治療を目的として、あまり白内障が進んでない目に多焦点眼内レンズを入れると、白っぽく見える現象(waxy vision:ワクシービジョン)が起こる可能性があります。手術の前よりもコントラストが低下するとwaxy visionとして感じるのです。明視域が広がってもコントラストが落ちると脳は喜べないのです。この場合は、コントラストの高い多焦点眼内レンズを選ぶ必要があります。

 

黄斑部が健康であれば、光の量が過剰であるため、多少のコントラストの低下は問題にならないことがほとんどですが、緑内障で黄斑部の感度低下があるなど光を受け取る力が低下している場合は、多焦点眼内レンズで光エネルギーの減少分が影響する可能性があります。明るくないところで見えにくいなどです。暗いところで精密な作業をする特殊なお仕事の場合は、多焦点眼内レンズは向いていないといえるでしょう。

 

②ハロー、グレア、スターバースト

ハロー、グレア、スターバーストは、夜間に光が下図のように見える現象のことです。

 

ハロー・グレア・スターバーストの見え方
ハロー・グレア・スターバーストの見え方

 

白内障でもこのような見え方をしますが、多焦点眼内レンズも、多少なりともこのような見え方になります。それぞれの程度はレンズの種類によりさまざまです。強くでるタイプのレンズもあれば、ほとんど出ないタイプもあります。機能が高いほど(加入度数が多いほど)強く出る傾向があります。

 

多くの場合は気にならず問題になりません。長距離ドライバーのように長時間夜間運転をする場合は、疲れの原因になります。もともと白内障が軽度でハロー、グレア、スターバーストが弱い目の場合は、気になりやすいかもしれません。同じ程度でも気になる人と気にしない人がいるのも事実です。

 

夜間運転の有無や、運転時間も多焦点眼内レンズのタイプを選ぶ際の大事なポイントになります。

 

③強度近視の方は「得る距離もあれば失う距離もある」

多焦点眼内レンズは、メガネ無しで近くから遠くまで、はっきり見えるレンズですが、フォーカスの合う近くの距離の限度にはレンズにより30〜50㎝と違いがあります。しかし、一番近くが見えるタイプを選択しても、手元の20㎝がはっきり見えるレンズは存在しません。

 

ところが、近視の強い方の多くは、本を顔に近づけて読む癖や、目もとに鏡を近づけてアイメイクをする習慣がある場合があります。

 

多焦点眼内レンズでは、30㎝から遠方のビジョンを得る代わりに、10〜20㎝くらいの手元のビジョンは失います。生活に最も必要な30㎝〜遠方を得ることで便利になるのですが、10〜20㎝くらいに近づけてみるという生活の癖を修正し適応していく必要があります。ほとんどの方は難なく適応できますが、稀には、ずっと見えていたところが見えにくくなったことにこだわって、不適合を起こすことがあります。

 

④多焦点眼内レンズは、傾きや偏位に弱い

単焦点眼内レンズは、単純な構造であるため術後眼内レンズが傾いたり、中心からはずれても、見え方への影響は大きくはありません。

 

一方、多焦点眼内レンズは、高度な光学的構造をしているため、レンズの傾きや偏心に比較的弱い性質があります。このため、水晶体嚢(人工眼内レンズを入れる袋)を支えるチン小帯が弱い場合は、多焦点眼内レンズが傾いたり、偏心して見え方に影響を受けたりする可能性があります。

 

この様な場合は、水晶体嚢拡張リング(CTR)で水晶体の袋を内側から補強します。

 

水晶体嚢拡張リング(CTR)
水晶体嚢拡張リング(CTR)

 

 

たとえチン小帯に問題が無くても、術後に前嚢収縮と言われる水晶体のふくろの収縮が強く起こり傾いたり、偏心したりすると見え方に影響することが稀にありますので、当院では、効果的な水晶体上皮細胞除去方法など前嚢収縮のリスクを減らす術式を研究しています。

 

水晶体のふくろの収縮が強く起こった例
水晶体のふくろの収縮が強く起こった例

 

 

⑤度数ズレに対する対応

眼内レンズの度数は、角膜のカーブ値と眼軸長から計算式で予測して決めます。メガネのように、レンズを試しながらベストの度数を決めることができません。度数は計算で求めるため、まれに度数がねらいとズレることがあります。

 

単焦点眼内レンズの場合は、メガネをかけることで矯正しますが、多焦点眼内レンズは、メガネ無しで生活することをめざすレンズですから、度数がズレた場合は入れ替えを行います。多焦点眼内レンズの場合は、度数がズレると、本来無視できる小さい乱視が見え方に悪影響を起こすこともあります。

 

当院では、度数ズレのリスクを減らすために、4つの計算式を併用して度数を決めています。また、術中に水晶体の中味を摘出した後に、術中リアルタイム計測し、そこからグローバルデータをもとに最適の眼内レンズ度数を提案してくれるORA Systemを導入しました。最近では、もう一枚眼内レンズを挿入するアドオンレンズが良くなりましたので、入れ替えの代わりにアドオンレンズで屈折誤差を矯正することもできます(自費診療となります)。

 

⑥乱視の影響が大きい

乱視は、ものが二重に見えたり、輪郭がぼやけたりします。乱視にはメガネで矯正できる「正乱視」と、メガネで矯正できない「不正乱視」があります。乱視の見え方への影響は、単焦点眼内レンズよりも多焦点眼内レンズの方が大きいのです。よって多焦点眼内レンズを選択する場合は、乱視を矯正することが重要になります。

 

「正乱視」は、トーリック機能を持つ多焦点眼内レンズ(ほとんどの多焦点眼内レンズには備わっている)で小さくできます。「不正乱視」が強い目は、多くの多焦点眼内レンズの機能が十分に発揮できない可能性があります。ピンホールタイプの多焦点眼内レンズは不正乱視に強い特徴があります。

多焦点眼内レンズは自分に合っていれば最高のレンズ

ここまで述べてきたように、多焦点眼内レンズは明視域(はっきり見える奥行きの範囲)が広い快適な見え方を提供してくれますが、レンズのタイプごとに見え方の特徴に幅があります。また、多焦点眼内レンズの性能を発揮して、長期間維持していくためには、単に眼内レンズを挿入して終わりではなく、多種類の精密測定装置を用いて計算し尽くした術前準備と手術行程と術後管理が必要で、高い技術と深い経験が求められます。

 

単焦点眼内レンズも明視域が狭いという欠点がありますが、普通に挿入すれば機能が発揮され、ピントさえ合わせれば見え方はシャープです。

 

我々はお一人おひとりの仕事やライフスタイル、年齢、目の状態を一生懸命把握してベストな眼内レンズを選びぬく努力をしています。

 

そして、ほとんどの方にとって白内障手術は人生が変わるようなハッピーな出来事になっています。多焦点眼内レンズも、自分に合っていれば最高のレンズになります。ただ、医師といえどもすべてを見抜くことはできないという謙虚さも必要です。

 

不適合は可能な限り予測して防ぐとともに、万が一、不適合が生じたら医師もつらいですが、患者さんが一番つらいですので、患者・医師双方が解決に向けて全力で向かい合うことが何より大切なのです。

 

 

板谷 正紀

医療法人クラルスはんがい眼科理事長

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

▼はんがい眼科の公式ブログ「目のブログ」▼
https://eyeblog-hangai.com/
▼多焦点白内障手術 無料個別相談会 開催中!▼
https://hangai.org/cataract-seminar/

著者紹介

連載近くも、遠くも、快適に…「見える」を取り戻す白内障手術

「見える」を取り戻す白内障手術

「見える」を取り戻す白内障手術

板谷 正紀

幻冬舎

レーザー白内障手術は、安全・快適・短時間に「見えない」という病気状態を解決し、「見える」を取り戻し、さらに快適に見えるを手に入れるまでに進化しました。この本では、進化した多焦点レンズ、レーザー白内障手術の最新情…