「住む家にかかるお金が世界一高い」と言われる日本では、不動産は相続財産の4割を占める大きな資産です。被相続人が認知症になると、生前の資産管理や相続のハードルがぐっと上がります。もし自宅や賃貸を所有する被相続人が認知症になった場合、どうなるのでしょうか。※本連載は、OAG税理士法人取締役の奥田周年氏監修の『親が認知症と思ったら できる できない 相続 暮らしとおかねVol.7』(ビジネス教育出版社、『暮らしとおかね』編集部)より一部を抜粋・編集したものです。

アパート個人経営者の現状「6割が60歳以上」の問題点

日本のアパート経営者は、8割強が個人であり、その60%を60歳以上が占めています。高齢化が進むと、アパート経営者の認知症リスクも高まることになります。そこには、意外な問題点が浮かびあがってきます。

 

高まる「アパート経営者の認知症リスク」、意外な問題点とは?
高まる「アパート経営者の認知症リスク」…意外な問題点とは?

 

民営の賃貸アパート・マンション、そして借家は、図表1の円グラフを見るとわかるように、現在個人が所有する物件が全体の約85%(1062万戸・法人所有約195万戸)を占めています。また個人経営者のうち、6割が60歳以上の高齢者となっています。今後、高齢化が進むとともに、オーナーが認知症になるケースは増えていくことが予想されます。
 

出典:総務省「住宅・土地統計調査」(2003年)
[図表1]民間アパートのオーナーは個人所有が多い 出典:総務省「住宅・土地統計調査」(2003年)

 

出典:公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「民間賃貸住宅市場の実態調査」
[図表2]高齢者が多い個人経営者 出典:公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「民間賃貸住宅市場の実態調査」

 

『【マンガ】被相続人が認知症になると「できない」こと:物件編』のように、アパート経営をしているオーナーが認知症になった場合、その後の経営はどうなるのでしょうか。

 

認知症といっても、症状がさまざまで、1人で日常生活を送れるくらい軽度の方もいれば、寝たきりになって意思表示ができなくなり、「意思能力」が低下したと判断されるケースもあります。

賃貸経営が難しくなるうえ、売却も困難

特に、アパート経営は、貸す方も借りる方も契約に基づいて運営されています。そのため、オーナーの意思能力がなくなってしまうのは深刻な問題を引き起こします。

 

たとえば、オーナーと入居者の賃貸借契約が結べなくなるので、新しく入居したい方を募集することができません。そのほか、契約の更新や解除もできません。

 

また、【マンガ】の例のように、建物の修繕も簡単には進められなくなります。小規模な修繕であれば可能でしょうが、本人確認が必要な大きな修繕、また借入れが必要な場合は、必ず本人の意思確認が必要です。特に所有するアパートの築年数がかなり古い場合は、あちらこちらと修繕があいつぐことも考えられますので、頭が痛い問題です。

 

実際のところ、そうした事務手続きなどは個人経営の場合は家族などが代わって行っているケースが多いようです。しかし、これは法的に無効となります。とはいえ、何もしないとなると、アパートの存続が危ぶまれるので難しい状況です。

 

もちろん、物件の売却にも影響が出ます。管理が困難になったので売却しようとしても、やはり賃貸借契約の時と同じように本人の意思確認が必須です。このため重度の認知症になってしまった場合は、売却はできなくなります。

「一人暮らしの高齢者」の認知症リスクも増加

一方で、判断能力が低下した入居者の問題も起こっています。家賃の支払いが遅れたり、認知症の種類によっては妄想や幻聴、幻覚のために近隣トラブルを起こすこともあります。

 

孤独死に至ってしまったケースでは、借りていた部屋を元どおりにするための原状回復費は約39万円~450万円と言われます(出典:第3回・孤独死現状レポート。一般財団法人日本少額短期保険協会)。この費用は保証人が支払うことになります。

 

一人暮らしの親族がいる場合は可能な限り、連絡を取り合える関係を築いておきたいものです。

 

 

【監修】奥田 周年
OAG税理士法人 取締役
税理士、行政書士


【協力】IFA法人 GAIA 成年後見制度研究チーム


【編集】ビジネス教育出版社 『暮らしとおかね』編集部

 

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