
研究開発が進み、多焦点眼内レンズの選択の幅が広がりました。ご自分の目とライフスタイルに合った「眼内レンズ」を選び、「若いころの快適な視界」を取り戻せる時代がやってきたのです。それぞれのレンズの特性について学び、白内障に備えましょう。 今回は、『「見える」を取り戻す白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、「アドオン多焦点眼内レンズ」を中心とした、様々な眼内レンズについてご紹介します。
完全オーダーメイド多焦点眼内レンズの特性
通常の眼内レンズは度数が0.5ジオプター(角膜や水晶体の屈折力の単位)刻みでしか作られていません。つまり、20.25の度数を選びたくても20.00か20.50しか選べないのです。完全オーダーメイドとは、精密に必要な度数の眼内レンズ(この例では20.25)をオーダー後に製造する仕組みを持った眼内レンズのことです。乱視矯正用トーリックレンズも精密にオーダーメイド作成されます。
製品例:レンティス、レイワン
【レンティス】
ドイツOculentis社が開発した、2焦点眼内レンズです。回折構造を持たず、焦点が遠方と近方に分かれた二つの屈折エリアからなります。近方加入は3.0です。
この構造により、今までの多焦点眼内レンズの欠点であった光学的エネルギー損失を約7%程度まで少なくしており、単焦点眼内レンズに近い、高いコントラストを誇ります。ハロー、グレア、スターバーストは少なめです。
屈折度数を0.01D刻みで、患者さん一人ひとりの目に合わせて完全オーダーメイドで作成します。乱視矯正用のトーリック機能も0.01D刻みで乱視軸もオーダーメイドです。稀ではありますが、ゴースト(見ている像に別の像がかぶってくる現象)が問題になることがあります。

【レイワン】
以前、『「メガネ不要」の暮らしが実現…「3焦点眼内レンズ」の特性』でも取り上げたレンズです。このレンズは、0.5刻みの既製品もありますが、完全オーダーメイドが可能です。

「ピンホール効果」を利用した眼内レンズ
【IC-8】
IC-8はアメリカAcu Focus社製の眼内レンズです。中心に1.36㎜の穴があいた直径3.23㎜、厚さ5㎛の黒いリングがレンズ光学部中央に入っています。
IC-8は構造上は単焦点レンズですが、黒いリングによるピンホール効果によって焦点深度が深くなり、多焦点眼内レンズと同様に、遠方から50㎝くらいまで見やすくなります。

ハロー、グレア、スターバーストは多焦点眼内レンズに比べて少ないと言われています。円錐角膜など不正乱視の強い目や近視矯正手術としての放射状角膜切開の施されている目など角膜に問題があり通常の多焦点眼内レンズの向かない目にも効果がある点が特徴です。作成されている度数範囲が狭近視の強い人に使える度数が無いのが問題です。
「単焦点眼内レンズ」が入っていても挿入できるレンズ
すでに単焦点眼内レンズの入っている方も諦める必要はありません。過去に単焦点眼内レンズを用いた白内障手術を受けておられる方に挿入できるAddOn(アドオン)眼内レンズが使えるようになってきました。
白内障手術で矯正しきれずに残ってしまった近視、遠視、乱視を矯正できます。さらには、単焦点眼内レンズの狭い明視域を辛く思う方、メガネを常時使うことを不便に思う方のために、多焦点のAddOnレンズが使えるようになりました。つまり、単焦点眼内レンズの方でも多焦点に変えることが可能になったのです。
AddOnレンズは、水晶体嚢と虹彩の間に固定するしくみになっています。この空間は最近レーシックに代わる近視矯正手術として注目されている眼内コンタクトレンズICLを固定する場所で、眼内レンズの安定した固定を可能にする場所であることがわかってきたのです。水晶体嚢と水晶体間の空間を使うインプラントレンズの進歩が止まらない印象です。

製品例:AddOn、Sulcoflex、Camellens
【AddOn】
ドイツ1stQ GmbH社のアドオンレンズです。4つの支持部により4点支持を行いますので、ずれや回転に強く安定して固定されます。
支持部は柔らかくたわむことができる構造を取っているため目の中の形状にフィットしやすく、ずれたり回転しにくい特性を持っています。やや厚みがあり虹彩が前方へ移動して前房が浅くなることがあります。

多焦点機能としては近方加入度数は3.0Dとやや小さく手元40㎝から遠方までが見えますが30㎝はピントがややあまくなります。2焦点ですので中間距離も若干弱いといえます。−3.0Dから+3.0Dの範囲の度数があり、この範囲でなら単焦点眼内レンズの焦点ズレを矯正できます。乱視矯正も可能です。
【Sulcoflex】
先に紹介しましたイギリスRayner社の3焦点眼内レンズと同様の3焦点機能を持っています。すなわち手元3.5D加入と中間1.75D加入で手元から遠くまでよく見えます。アドオンで3焦点化するのであれば、このレンズになります。
2本の支持部からなり、着脱が容易な構造になっています。薄いため前房が浅くなることはありません。術後回転することがあることが判明し、トーリックタイプは自主回収され改良を待っているところです(2020年3月現在)。

【CAMELLENS】
最新のアドオンレンズです。イタリアのSoleko社製です。支持部がラクダのこぶのように2つあり、これが眼内レンズの術後回転を防ぐのが強みですので、レンズの名前がCamel(ラクダ)lensになっています。

このレンズに2.5D加入のEDOFタイプがあります。−5D〜+5.0Dの範囲の度数があり、乱視も+1D〜+6Dまで度数があります。安定して屈折誤差、乱視を矯正し、近方はやや弱いですが多焦点化で明視域を広げることができる嬉しいレンズです。
板谷 正紀
医療法人クラルス 板谷アイクリニック銀座 院長