コロナ不況と金融危機…「銀行の取り付け騒ぎ」の勃発リスク

貧困に喘ぐことなく、これからの時代を豊かに生きるには「経済センス」を磨くことが不可欠です。多くのメディアで人気コラムを執筆している経済評論家の塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解く本連載では、前回より数回にわたって、コロナ不況の深刻化を懸念する人のために、金融危機のリスクシナリオを解説しています。今回は、「銀行の取り付け騒ぎ」について。予測ではないので過度な懸念は不要ですが、頭の片隅に置いておいて損はないでしょう。

銀行の不良債権増加で、預金者の不安も増大

新型コロナ不況は深刻です。政府はさまざまな支援策を打ち出していますが、それでも多くの企業が倒産することになると予想されます。そうなれば、銀行が巨額の不良債権を抱えることとなり、赤字に転落するところが出てくる可能性が高いと思われます。

 

もともと銀行は長引くゼロ成長とゼロ金利に苦しめられてきたため、体力が落ちている地域金融機関も少なくないといわれています。そんな折のコロナショックですから、経営不安の噂が流れても不思議はありません。

 

そうなると怖いのが「取り付け騒ぎ」です。「あの銀行は危ない」といった噂やデマが流れると、人々が預金の引き出しに殺到して本当に金庫が空になってしまい、倒産してしまう可能性もあるからです。

 

過去にも取り付け騒ぎは複数回発生しています。有名な取り付け騒ぎといえば、1973年に起きた「豊川信用金庫事件」でしょう。愛知県の現在の豊川市あたりを中心に「豊川信用金庫が倒産する!」という噂が流れ、約20億円もの預貯金が引き出されました。学生の「信用金庫は(強盗などに遭ったら)危ない」という他愛ないおしゃべりから「(豊川)信用金庫(の経営)が危ない」という噂が広がったとされています。なお、豊川信用金庫は経営上なんの問題もありませんでした。

 

比較的最近では、2003年に佐賀銀行で取り付け騒ぎが起こっています。その年の年末に出回った「佐賀銀行がつぶれるらしい!」というチェーンメールが引き金となりました。この騒ぎによって、引き出された預金は約500億円といわれています。

 

あああ
人々が「足りなそうだ」と思っただけで…

 

問題なのは、取り付け騒ぎに遭うのが本当に危ない銀行だけとは限らないという点です。数ヵ月前のトイレットペーパー不足を思い出せばおわかりになるように、足りないはずがないものでも、人々が「足りなくなりそうだ」と思っただけで、本当に足りなくなってしまいました。銀行についても同様に、本当には危なくない銀行が取り付け騒ぎに見舞われる可能性も否定できないわけです。

 

もっとも、過度な懸念は不要です。取り付け騒ぎに対する対応策はさまざまに工夫されていますから。

銀行の健全性は「多くの規制」で担保されている

銀行が健全でなくなると、人々が不安になるので、取り付け騒ぎが起きる可能性が高まります。したがって、日頃から銀行の業務には厳しい制約が課されていて、銀行が健全性を保つように監督されているのです。

 

一般企業の倒産とくらべ、銀行の倒産は日本経済に与える影響がケタ違いに大きいので、ハイリスク・ハイリターンな業務に従事することが許されていないわけです。そのことが、銀行に対する信頼性を高め、取り付け騒ぎの可能性を低下させている、というわけですね。

 

銀行に対する検査もしっかり行われており、銀行が危険な業務をしていたり銀行の不良債権が増加していたりすれば、是正命令等々が出されることになります。したがって預金者は「当局がしっかり銀行の健全生を担保してくれているから、銀行は大丈夫だ」という安心感を持つことができるわけです。

「預金保険制度」は取り付け騒ぎ予防策も兼ねている

「預金保険」という制度があります。大雑把にいえば「1000万円までの預金は、銀行が倒産しても政府が代わりに払い戻してあげます」という制度です。

 

これは、銀行が破産して大損してしまう庶民を守るための制度ですが、もうひとつ「銀行破産の噂を聞いても急いで預金を引き出す必要はありません」という意味もあるのです。

 

これは、理屈からすれば強力な取り付け騒ぎ予防策となるはずです。もっとも実際には、預金保険制度の存在を知らない人が多く、銀行が破産しそうだという噂を聞いたら預金引き出しに殺到する人が多いのでしょうね。

 

日本政府は広告宣伝が下手ですから、せっかくいい制度を作っても、人々が制度の存在を知らない、という場合が少なくないようです。余談ですが、今次新型コロナ関連の資金繰り支援策なども、もっと上手に宣伝してほしいと思っています。

取り付け騒ぎが起きたら「日銀の現金輸送車」が急行!

取り付け騒ぎが実際に起きてしまうと、銀行の金庫の現金はすぐに底を突いてしまいます。銀行は、取り付け騒ぎが起きないことを前提として金庫の中の現金を少なめに持っているからです。

 

しかし、金庫の現金が底を突いて押し寄せる客の引き出しに応じられないと、客の間で銀行破綻の懸念が一層深まってしまいます。それを避けるためには、日銀が現金輸送車で札束を運んで来て、店頭に積み上げると有効なのだそうです。

 

積み上がった札束を見て、押し寄せた預金者が安心して、預金を引き出さずに帰る、という話も聞いたことがあります。

 

こうして考えると、取り付け騒ぎが起きる可能性は高くなさそうですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、わかりやすさを追求しているため、細部については厳密でない場合もあり得ます。ご了承ください。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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