「人生100年時代」となった日本。高齢化に伴い、認知症患者数も右肩上がりに増えています。家族や会社の人に迷惑をかけないため、事前の「相続対策」は必須といえます。特に中小企業経営者の場合、手遅れになってしまったときの損害は計り知れません。そこで本記事では、新月税理士法人の佐野明彦氏が、実際の事例を紹介し、生前対策の重要性を解説します。

「99%、君を愛しているよ」

お客様の中には「結局、相続税はいくらなの?」と、相談の段階から結論を要求される人がいます。お客様も千円単位まで知りたいと思っているわけではないでしょうから、当然、わかるところまでの金額は示させていただきます。

 

ただし、私ども税理士は、相続に関する依頼を受けた際、財産額や債務額などの数字を事務的に淡々と計算するだけでは済まないのです。実はとても深くお客様と関わっていくことになるのです。

 

「お父さんが亡くなってね……」このような言葉からはじまり、かけがえのない一人に実際にあった「お金にまつわるストーリー」を、相談者である相続人から聞いていかなければなりません。

 

我々が相続税を算出するまでには、亡くなられた方の人生そのものを生まれた時から遡りなぞっていきます。それは、あたかも一つの私小説を読むように、戸籍や通帳、証書を読み解くのです。そして、現在のご家族がどういう状況なのか、相談者のご自宅でお話しを伺っていくなかで、自分自身の生き方や死に方についても考えさせられます。

 

相続では、残念ながら大切な方が亡くなったにもかかわらず、その方の財産をめぐって争いが起き、家族の気持ちがバラバラになってしまうこともあるようです。そのため、最近では「争続」とも呼ばれています。相続の仕事に携わる時には、本当に、亡くなった方がいつも私たちのそばにいるように思えます。その方たちが「遺された家族のためにどうかよろしくお願いします」と言っているように感じるのです。そんな時は手を合わせて本当に祈りたくなります。

 

我々が大好きなご夫婦がおられました。いつまでも仲良しで理想のご夫婦でした。ご主人が亡くなられたとお聞きして、ご霊前に手を合わせにお伺いした時のことです。奥様はご主人が亡くなられた時のことを、ポツポツとお話しになったのです。何でもない日のゆったりとした時分、ご主人はお昼寝をされていたそうです。そして起き上がろうとしたその瞬間、切迫した病気があったわけでもないのに様子が急変し、ロウソクの火がふっと消えてしまうように一瞬で亡くなられたということでした。

 

亡くなられる3日前、ご主人はなぜか突然「99%、君を愛しているよ」とおっしゃったそうです。その時、奥様は「この人ったら何を言っているのかしら」と笑っていたらしいのですが、亡くなった後に、「どうして99%だったのかしら」と考えてしまったそうです。

 

我々が「どうして100%じゃないのでしょうか?」とお聞きしたところ、奥様は「100%って言ったら、嘘っぽいからじゃない?」と笑顔で答えてくれました。本当のことなんて誰にもわかりません。人はやはりちょっぴり隠しごとはあるのです。けれどもそれでいいのでしょう。そして、我々は相続税の申告書を税務署にお出しします。

 

「お父さんが亡くなってね……」「いろいろあったけど、お父さんがよかった」「けっきょく相続税はいくらだったの?」毎年、お正月に自分の隠しごとを披露して、皆でちょっと驚いて笑い、相続のことを普通に話題にできる。そのような、ちょっとだけ隠しごとと面白味がある楽しい人生がよいのかもしれません。

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

妻に隠しごとがあるオーナー社長の相続対策

佐野 明彦

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな男性も妻や家族に隠し続けていることの一つや二つはあるものです。妻からの理解が得にくいと思って秘密にしている趣味、誰にも存在を教えていない預金口座や現金、借金、あるいは愛人や隠し子、さらには彼らが住んでいる…

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