病気を未然に防ぐ「栄養学」と「食品機能学」に加え、老化についても最前線の研究成果を紹介する。知らず知らずのうちにストレスをため込んでいませんか。健康的な生活を送るために役立つ「食事の知恵」や「医学の意外な常識」を明らかにします。本連載は東海大学農学部バイオサイエンス学科の永井竜児教授の『間違いだらけの栄養学』(辰巳出版)から一部を抜粋し、読んで効く「読むくすり」をお届けします。

栄養学を十分に学ばない医学部の実態

医学部のカリキュラムでは栄養学はそれほど重視されず、関連する授業がほとんどないか、1科目程度しかありません。その内容も、肝炎や腎臓病のときはタンパク質を減らしましょう――くらいの知識は医師に教えていますが、僕が研究する食品機能性に関するものなどは、見渡してもまったくないというのが実態です。

 

いま、テレビでも書籍でも、医師によるダイエットや健康のための栄養学が話題になっています。実際それらの番組は視聴率も高く、たくさんの書籍がヒットしています。しかし、栄養や食品機能に関する知識を専門的に学んでいるかどうか、少なくとも大学という場においてそれを習得しているかというと、疑わざるをえません。僕が調べたところ、全国86大学の医学部のうち、栄養に関する科目のある大学は21校にとどまりました。

 

コ・メディカル(医療従事者)に関連する職種には、医師以外にも、薬剤師、管理栄養士、看護師、理学療法士などがあります。予防医学はまさに管理栄養士の仕事です。コ・メディカルが大学で学ぶ期間は、医師は臨床実習があり6年制です。薬剤師は以前4年制でしたが、医師と同様に臨床薬剤師を育てるために2006年から6年制になりました。管理栄養士も病院で入院患者に栄養指導します。とくに生活習慣病などで入院した患者に対しては、臨床で管理栄養士の指導は欠かせず、6年制に移行を希望する声も出ています。

 

しかし現在、管理栄養士の履修年数は6年制になっていません。医学分野はとても授業科目が多く、順調に単位を取っている学生でも4年生の土曜日に授業があるほど、科目の履修はハードです。僕も教員として、日本女子大で管理栄養士コースを担当していましたが、学生たちの授業は、詰め込みという状況でした。

 

しかし、それだけ苦労して授業を受け、単位を取って国家試験をパスして管理栄養士になっても、管理栄養士の給与体制ができていないので、なりたい人がどんどん減ってしまっているのが実情です。ましてや、6年制が求められていても、6年間学費を払って卒業後に収入が期待できる職種になっていないようであれば、勉強して栄養士になろうという学生はますますいなくなってしまいます。

 

ふつうの親は、子どもが国家資格を持っていれば食いっぱぐれがないだろうと思いますから、管理栄養士コースの受験倍率はけっこう高くなっています。場所によって管理栄養士コースは偏差値60を超えて、時として医学部よりも偏差値が上になるほどです。学生たちにアンケートを取ると、1年生のときは管理栄養士になるという気持ちが高いのですが、管理栄養士になるための学外実習を受け、さらに給与の現実を目 まの当たりにすると、管理栄養士を希望する者は学年があがるにつれて減少してしまう。これはとてももったいない話です。

 

医師が専門的に栄養学を学ぶ機会が少ない教育システムの現状で、管理栄養士に求められる役割や期待はものすごく高いのに、安い給料しか保障されないようでは、学生に「頑張れよ」といっても、頑張った先にそれに見合う未来がないのでは申しわけが立ちません。

 

その前に国やわれわれが、管理栄養士が職業として報われる体制をつくってあげないといけない。そして医師も、もっと栄養や食品機能についての知見を得たうえで、生活習慣病患者の予防や予後の指導をすべきです。そうしないことには、国民の健康は守れないと僕は強く危惧しています。

 

 

永井竜児

東海大学農学部教授

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