新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

墓もマンションのようにみんなで住む時代

厚生労働省の予測によれば、2040年には死亡者数は166万人と今よりさらに24%も増加するとしている。それもそのはずである。2017年9月、厚生労働省の発表によれば、現在国内では80歳以上の人口が1002万人。対前年比で 38万人の増加となり、初めて1000万人の大台を超えたという。さらに90歳以上の人口は206万人、100歳以上の人口でも6万7000人となっている。どんなに長寿社会になるからといっても、この数値だけから判断して今後20年くらいの間で1000万人近くの人が亡くなっていくことは、誰が見ても明らかだからだ。

 

いっぽう現在、日本の人口の約3分の1が東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県で構成される首都圏に集中している。つまり、今後は首都圏での死亡者数が激増することが、容易に予測できる。ところが、首都圏で墓地として提供できる土地は少ないのが実態だ。

 

墓を持つ側のニーズにも変化が表われている。墓地といえば、これまでは地方の実家の周りにある、あるいは郊外の山などを造成して開発した霊園に多く存在したが、こうした施設に対する不満も多い。年に数回の墓参りに行くにも遠くて交通利便性に欠ける、墓参り時の天候に影響を受ける、墓の清掃や雑草取りなど手間暇がかかる、土地使用料や墓石代などの費用が高いなどといった理由が挙げられている。何事にも合理的に考える世代が台頭していく中で、既存の施設に対する不満が高まっているのである。

 

このような状況を反映して現在人気なのが、墓ビルである。墓地の形態をとらずに建物の中に収容をする納骨堂は何も今に始まったものではないが、最近増加しているのが、ビルを建てるか既存のオフィスビルやマンションを改装して、建物全体をお墓の収用場所にしようというものだ。墓もマンションのようにみんなで「一緒に住む」という時代になったのだ。

 

墓ビルではハイテク化も進んでいる。以前は建物内に棚を設(しつら)えて骨壺などを並べるだけの簡素なものだったのが、機械化され参拝者は決められたブースに来てICカードで登録番号を読み取ってもらい、該当する塔婆などの一式が目の前に出現するのを待つ。まるで銀行の貸金庫室に行って自分の金庫を取り出すような感覚だ。線香などもあらかじめ備わっているので、手ぶらで参っても大丈夫。何事も手軽に済ませられることも人気の秘密になっている。

 

費用も墓地であると区画にもよるが、墓石などを含めるとなんやかんやで200万円から300万円程度はかかってしまうが、自動式納骨堂であれば100万円程度。永代使用権や永代供養なども含まれているものが多いので安上がりである。

 

また近年は少子化が進み、「おひとりさま」需要も増える中、墓守をする後継者がいない人にとっても負担が少ないといえそうだ。

 

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不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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