新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

建物オーナーがデベロッパーに売却の結果

結果として、道路の南側にもあった飲み屋やラーメン屋の多くが潰れることになった。私が足しげく通った立ち食い蕎麦屋も閉店。店主によれば客が3割以上減少して商売にならなくなったという。

 

立ち退いた店の後にできるのは細長い賃貸マンションばかりだ。間口の狭い賃貸マンションには街としての顔がない。人を惹きつけるような看板や提灯もない。道路の南側は急速に寂れた街に変容してしまったのだ。

 

牧野知弘著『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)

いっぽう4丁目の北半分から駅にかけては相変わらずのにぎやかさだ。だがここにも変化の波が押し寄せている。マッカーサー道路の開通はデベロッパーにとってはその沿道は垂涎の的。大手を中心に沿道の地上げ合戦がスタートした。価格は跳ね上がり、かねてよりの金融大緩和の追い風も受けて、暴騰を続けた。目の前に札束をチラつかされた新橋オーナーたちの多くが、店をたたんでデベロッパーに土地を明け渡し始めたのだ。

 

新橋の零細店舗の多くは不動産を所有せず、大家から建物を借りているケースが多い。建物オーナーも最近の地価高騰と地上げを目論んで高値を提示するデベロッパーの流し目に負けて、不動産を売り渡す事例が相次いでいる。

 

私のお気に入りだった、リーズナブルで美味しい家族経営の寿司屋は18年末に閉店。店主によればオーナーが建物を売ったので「出て行ってくれ」だったそうだ。その寿司屋のすぐ対面にあった、3000円分も飲んだら酔いつぶれてしまうほど安い居酒屋も閉店した。

 

エリア内の古い店舗が続々看板をたたみ始めているのだ。おそらく周辺土地を買い増したデベロッパーが巨大なオフィスビルを建て、その地下に申し訳程度にチェーン店を誘致することだろう。六本木や大手町、日本橋の巨大ビルの地下のどこかで見たような看板のお店だ。小洒落ているけどなんとなくお高くとまって「おいしいでしょ」と脅迫してくるようなお店が現われることだろう。食べログにいくつ星があるか、なんて言い合いながらお店にやってくるお客さんの顔も変わっていくのだろう。

 

ああ、なんだかつまらない街に変貌していきそうな新橋。やっぱりそろそろ潮時だったのかも。

 

牧野 知弘

オラガ総研 代表取締役

 

不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧