新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

ホテルにとってお客様は神様?どろぼう様?

数週間後、さらに私を驚愕させる報告があった。

 

「牧野さん、花瓶が割れてます」

 

あまりの持ち帰りの多さに困惑した私たちは、今度は花瓶があぶない、ということで実は花瓶の底を接着剤で棚に固定しておいたのだ。その花瓶が割れている。

 

牧野知弘著『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)

おそらく、お客様は(この際どろぼう様といったほうがよいのかもしれないが)花瓶を持ち帰ろうとした。けれども花瓶は固定されていて動かない。そこで思い切り棚から引き剝がそうとしたのだろう。花瓶はこなごなに割れてしまったのである。

 

お客様の盗人ぶりは客室内のみならず、ホテル内のどこでもいかんなく発揮される。宴会場フロアのトイレではよく、ブース内のトイレットペーパーが根こそぎ持ち去られることがある。監視カメラを備え付ける案も検討されたが、特に女性用トイレでは別の意味で設置が難しいとの結論になった。

 

また、ある関西のホテルでは毎朝宴会場のトイレにやってきて洗濯をする近所のおばちゃんがいた。自宅でやらずにホテルで洗濯。ホテルの洗面所はお湯も出るし、水道代もタダやねん。何度注意してもやめない。丁寧に説明してお引きとりいただこうとしたら、

 

「あんたらしつこいね。警察呼ぶぞ」

 

と逆ギレされる始末。

 

なぜ、宴会場フロアがよく狙われるかといえば、宴会場はたいていの場合、昼から夜にかけて使われ、逆に朝は閑散としているために、忍び込みやすいというわけだ。

 

忍び込みやすいのはホテルの厨房も同様だ。厨房には朝から夜まで多くの仕入れなどの業者が出入りする。調理場のスタッフは目の前の調理に夢中になっているので、人が入ってもあまり注意を向けない。顔を合わせても「ちわーっす」とでも挨拶すればだれも疑わない。ついでに調味料をとられても気がつかないし。プレートに並べた美味しそうなカナッペを口に入れたとしても気がつかれることは稀なのだ。ホテルスタッフは館内のどこでも、知らない人はお客様だと思っているので、基本、疑うことを知らない。

 

お客様はホテルにとって神様だ。しかし、同時にどろぼう様でもあるのだ。今日も ホテルから満足顔でチェックアウトするお客様、宴会場や厨房から笑顔で出てくるお客様の中に、どろぼう様が潜んでいるのだ。

 

牧野 知弘

オラガ総研 代表取締役

 

不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

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