銀行が「収益の出せない預金部門」を温存しつつ狙う「先の先」

これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家の塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解きます。第25回は、ゼロ金利時代、銀行にとって普通預金口座の維持管理がどれほど負担になっても、銀行が死守し続ける理由を解説します。

金食い虫の「預金部門」を縮小できない5つの理由

皆さんもご存じのように、現在は大変な低金利です。スイスやデンマークなどのヨーロッパの民間銀行では、条件付きでマイナス金利を導入したところもありますが、日本はなんとか「ほぼゼロ」に踏みとどまっています。

 

通常、定期預金や普通預金に適用される「預金金利」は、金融市場において銀行間で資金の貸し借りの取引等に適用されている「市場金利」より低く設定されます。預金金利は、市場金利からコストと適正利潤を差し引いて設定するのが合理的だからです。

 

もっとも、預金金利を現状よりさらに低く設定してしまうと(本当のゼロ金利、あるいはマイナス金利)、顧客は他行に逃げてしまいますし、高く設定すると、ビジネスとして適正利潤が稼げません。

 

とはいえ、現在は市場金利がゼロですから、預金金利もほとんどゼロです。そのため銀行は、口座維持にかかるコスト分が負担になっているわけです。理屈のうえでは、預金金利をマイナスにすればいいのですが、上記でも述べたとおり、ほかの銀行がゼロ金利でガマンしているときに自行だけ預金金利をマイナスにすれば、顧客が逃げるのは明らかです。

 

そうなると「必要な資金はほかの銀行から借りてくることにして、預金部門を廃止してしまおう。そうすれば、預金部門の人件費等々のコストが不要になる」と考える人が出てくるかもしれません。

 

しかし、それは実際にはむずかしいのです。主な理由としては、

 

●将来の金利上昇に備えておきたい

●金融危機に備えておきたい

●借り手が預金口座を開きたいと希望してくるから廃止できない

●銀行側も借り手に預金口座を開いてほしいと思っているから廃止できない

●口座情報を通じ、預金客に投信や保険を売るチャンスをつかみたい

 

などがあるわけです。

 

あああ
預金部門を廃止できない5つの理由…

来るべき将来の「金利上昇」に備えてもらう

市場金利が上がったり下がったりしても、預金金利はそれほど変化しません。当座預金の金利は基本的にゼロですし、普通預金には少ししか金利が付きませんから。したがって、将来市場金利が大幅に上昇することがあれば、預金部門は大幅な利益を稼げるようになります。

 

ちなみに銀行内部では、預金部門は預金金利で集めた金を市場金利で経理部に貸して、金利差を預金部門の利益として計算するわけです。貸出部門は経理部から市場金利で金を借りて、貸出金利との差を利益として計算するわけですね。

 

現在のことだけを考えるなら、預金部門のコストは削りたいところですが、将来高金利時代になったときに大きな収益源となる可能性を秘めているので、廃止するわけにいかないのです。

 

「ならば、とりあえず預金部門を閉鎖しておき、高金利時代が来たら再び預金部門を作ればいいじゃないか」と考える人もいるかもしれませんが、それは無理なのです。預金部門の人員の採用と研修も大変ですが、それ以前に、預金口座を顧客に作ってもらうことが容易ではないからです。

 

顧客は一度作った口座を使い続けるほうがラクですから、すでに他行に口座を持っている人が、都合よく自行に口座を開いてくれる可能性は低いでしょう。口座を開いてくれるのは初めて銀行に口座を開く若い人だけ、といったことも十分考えられます。

 

もし、いまのような状況が未来永劫続くのであれば、ほかの銀行から必要な資金を借りるという方法でもいいかもしれませんが、将来また金融危機が起こる可能性が捨てきれない以上、万一に備える必要があるということも、預金部門を維持しておく理由です。

 

また、バブルの崩壊や大不況によって銀行がみんな大幅赤字になれば、「取り付け騒ぎに見舞われるといけないので、金庫に札束を積み上げておかないと不安だ。ほかの銀行に金を貸すなんてイヤだ」と、ほとんどの銀行が考えるでしょう。

 

そうなれば、他行からの借金に頼っている銀行は資金不足で倒産しかねません。可能性がどこまであるかはわかりませんが、もしも現実になってしまった場合の被害は洒落になりませんから、そういった状況にも備えておく必要があるわけです。

 

経済評論家

1981年東京大学法学部卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。主に経済調査関連の仕事に従事したのち、2005年に退職して久留米大学へ。現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と無関係に個人として行なっているものであるため、現職欄には経済評論家と記すものである。

著書に、『老後破産しないためのお金の教科書―年金・資産運用・相続の基礎知識』『初心者のための経済指標の見方・読み方 景気の先を読む力が身につく』(以上、東洋経済新報社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)、『退職金貧乏 定年後の「お金」の話』『なぜ、バブルは繰り返されるか?』(以上、祥伝社)、『経済暴論』『一番わかりやすい日本経済入門』(以上、河出書房新社)など多数。

趣味はFacebookとブログ。

著者紹介

連載経済評論家・塚崎公義の「身近なテーマで経済センスを磨く」実践講座

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