
白内障手術には、眼科医が手動で行う手術と、レーザーによる手術の2種類が存在します。今回は、『「見える」を取り戻す白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、レーザー手術成功のカギとなる、目の立体的なかたちを正確に測定できる検査機器:OCTについて解説します。
レーザー白内障手術システムLenSx(レンズエックス)
はんがい眼科では「レーザー白内障手術システムLenSx」という最新鋭機器を採用しています。このシステムが優れている点は、先述した目のかたちのデジタル情報を得る手術ガイダンスシステムと連動していることです。

私たちの目の構造は、解剖学的には同じように見えますが、実は角膜や水晶体の大きさ、長さ、カーブなどは、お一人おひとりでまったく異なっています。手術ガイダンスシステムで、それぞれの目の個性に合わせて、カスタマイズした手術をすることが可能になります。

またレーザー白内障手術システムLenSxは、世界中で使用されているため、メーカーが世界各国の眼科医からフィードバックをもらい、定期的にシステムのアップデートをしています。装置の一部機能やプログラムなどを改良し、性能を高めているのです。アップデートされるたびに操作性が向上しており、安全でよりよい治療ができるように進化しています。
「医師の感覚と経験」から、デジタル制御の時代へ
このレーザー手術は、OCT(光断層干渉計)と白内障手術ガイダンスシステムを併せて使うことで真価を発揮します。OCTは、目の立体的なかたちを正確に測定できる検査機器です。そしてガイダンスシステムは、執刀医が覗いている手術用顕微鏡にあらかじめ計画した角膜の切開位置、前嚢切開の位置、乱視矯正用トーリック眼内レンズの固定位置を表示してくれるシステムです。
当記事では、OCTについて詳しくご紹介します。
■OCT(光断層干渉計):目の中に入ったかのように眼底の様子を観察できる
OCTは、近赤外光を利用して網膜や視神経など眼底の断面画像を得ることのできる検査装置として進歩しました。目は外から光で観察できるという利点を生かした画期的な装置で、造影剤や放射線を使わないので患者さん自身にほとんど負担をかけることなく、目の断面図をミクロンレベルで繰り返し撮影することができるのです。

実は私は、2005年にトプコン社と筑波大学の安野嘉晃先生(現筑波大学教授)による、世界で初めて発売されたスペクトラルドメインOCTの開発に医師として参加。OCTを世に出すために努力しました。


最も権威ある『Ophthalmology』という医学雑誌の表紙を2度飾り、世界の注目を集めました。そのため、眼科医療の世界でOCTが患者さんの病態解明や治療に力を発揮している現状を見るにつけ、胸に熱いものがこみ上げます。

また白内障の手術後にどのくらいの視力が出るかは、術前に黄斑をOCTで観察することにより予測可能になりました(「黄斑」の詳細記事:視界が歪む、目がかすむ…増加する「黄斑疾患」の原因とは)。
白内障の手術は、濁った水晶体を取り除き、クリアな人工の眼内レンズに置き換える治療方法です。しかし視力を司る「黄斑」に何らかの障害があると、いくら水晶体(レンズ)をクリアにしても高い視力は望めません。
黄斑部や網膜などの眼底をしっかり確認することで、もし黄斑前膜が見つかった場合、白内障手術と同時に、黄斑前膜を治療する硝子体手術を行います。加齢黄斑変性が見つかり治療が必要な状態でしたらVEGF阻害剤の硝子体注射を平行して行います。網膜裂孔が見つかったらレーザー光凝固術を行い網膜剥離を予防します。緑内障が見つかったら緑内障の治療を開始します。
白内障手術で視力が改善した後も、加齢黄斑変性や緑内障に気がつかずにいると、悪化させてしまい視力が落ちてしまうこともあります。白内障の治療を行うときは視機能を司る網膜や視神経のある眼底の健康も包括的に管理することが大切なのです。
〈3次元前眼部OCT〉
OCTは眼底部の測定をする装置として登場しましたが、角膜や水晶体など眼球の前部を観察するためのOCTを「前眼部OCT」といいます。前眼部三次元OCTは、角膜の表面だけでなく裏側も含めた角膜全体の形状を精密に解析できるため、より正確な角膜乱視を求めることができ、白内障手術における乱視矯正に威力を発揮します。円錐角膜など角膜の異常を検出するのにも有効です。他にも、虹彩と角膜の距離や隅角の形状と角度など緑内障診断に欠かせない機能があります。
特にプレミアムレンズを設置するための、レーザー白内障手術では、レーザーを当てるための設計図をOCTにより取得します。まず手術場において手術用OCTでリアルタイムに目の構造を三次元画像解析します。すぐさまこのデータを設計図として切開を行いますから、計画したとおりの切開が再現性良く可能になるのです。レーザーが眼科医の手(メス)の代わりをするなら、OCTは眼科医の目の代わりをする存在といえます。

OCTによる術前の検査では、以下のようなことを調べます。
【前眼部OCT】
1.角膜(黒目部分)
角膜の表面と裏面の形状を3次元的に計測して、角膜乱視、角膜高次収差など術後視力に影響を及ぼす角膜形状の異常を調べます。角膜の正乱視の矯正のために用いるトーリック眼内レンズの適切な乱視度数・軸を正確に求め、適切なトーリック機能の使用を可能にします。
2.白内障の術前・術後の水晶体の状態
水晶体や眼内レンズの傾きや偏心(中心からズレていること)の程度を測定することができます。術前であれば、チン小帯が切れて水晶体が亜脱臼しているのを観察することができます。術後であれば、眼内レンズの位置などを観察することが可能です。
【後眼部OCT】
3.眼底疾患の有無
加齢黄斑変性、黄斑前膜、黄斑円孔、網膜剥離、糖尿病網膜症などがないかチェックします。緑内障の有無も調べることができます。
【検査方法】
外来で用いるOCTにはいろんな種類がありますが、基本はイスに座った状態で、機器についている台にあごを乗せていただき、片目ずつ機器をのぞいていただきます。
そして、中央に表示されているマークをみていただきます。赤や緑の光が見えますが、目(眼球)には何も触れませんので、痛みなどはまったくありません。検査自体は、撮影モードにも依りますが両眼2〜10分程度で終わります。

板谷 正紀
医療法人クラルス 板谷アイクリニック銀座 院長