子を妬む母、愛し方が分からない父――「毒親」とも呼ばれる大人の姿。子が自分より優秀だと薄らぼんやり気づいてしまったそのとき、彼らは自身の子を「弱点」と捉え、否定してしまう。書籍『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ社)を上梓した脳科学者の中野信子氏は、「パンドラの箱を開けるような気持ち」で、毒親の実態を語っている。

陣痛促進の物質が愛着を作るものとして機能している謎

そもそも、オキシトシンというのは「陣痛を促進する」という意味のラテン語から来ている言葉です。

 

1906年、イギリス人のヘンリー・デールが、牛の脳下垂体を搾った汁が出産の経過の加速を引き起こすことを発見しました。哺乳動物が出産時に子宮を収縮させ、授乳時には乳腺を収縮させ、乳の分泌を促す働きがあるとわかったのです。その搾り汁の中にあるこの物質がオキシトシンと名付けられ、陣痛促進剤として使われるようになりました。

 

つまり、人間の絆を作る物質として見つかったものではないのですが、投与するとどうも相手に愛着を感じさせるようだと、だいぶあとになってわかったのです。

 

陣痛を促進させる物質がどうして愛着を作るものとして機能しているのでしょうか。出産時にオキシトシンが大量に脳内から分泌され、陣痛を促進し、赤ちゃんを押し出すように作用します。そして、生まれてくる赤ちゃんに愛着を感じさせるために母親の脳を改造させる……いわば女の人の脳を母の脳に改造するために使われているのです。

 

赤ちゃんが生まれ出てきたときに「こんな子産まなきゃよかった」などとその個体に恨みを持たないようにと脳で働いて、愛情深い母親の脳にさせてあげる。母性愛を強め、精神的に安定する効果をもたらすのがオキシトシンの大きな役割です。

 

哺乳類にとっては大きな役割です。哺乳類というぐらいですから、自分の体を破って出てきた赤ちゃんに対して愛情を抱けず、乳を与えることが不可能になれば、いずれ次世代は絶え、種が滅びてしまいます。つまり、オキシトシンが出ない遺伝子の人間は残らなかったわけです。

 

ただ、今は医療も発達していますし、母親にオキシトシンが分泌されずに育児が放棄されても、誰かが面倒を見てミルクを与えればいい。愛情を抱けない母親の個体数が増加すると、母子の絆が100年、200年と経過していくうちに薄れていくかもしれません。ただ、今のところ、そのような傾向にはないようです。

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本記事は、中野信子著『毒親』(2020年3月25日・ポプラ新書刊)より一部を抜粋・編集したものです。最新の情報には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ

毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ

中野 信子

ポプラ新書

家族についての悩みはあなたのせいではない! 気鋭の脳科学者が、ついに「パンドラの箱を」開ける! 「毒親」の正体とその向き合い方を分かりやすく説きます。 ●親を憎んでしまうのは、自分のせい? ●なぜ、子どもを束…

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