人生100年時代…。社会現象となった「熟年離婚」は、生活や金銭のストレスだけでなく、寿命でさえも左右してしまいます。夫婦円満の秘訣を学び、熟年離婚の危機に備えましょう。今回は、性差医療専門医・清水一郎氏の著書『ストップthe熟年離婚』から一部を抜粋し、「なぜ、夫婦が熟年離婚に至るのか」について解説します。

信頼低下で「受け入れてもらえない」苛立ちが爆発

それでは、熟年離婚を具体的に考えるようになるのはどんなときでしょうか? 

 

たとえば妻からなら、

・夫は仕事で忙しく、家にいればパソコン、スマホかTVです。私は無視され、私が存在する意味がありません。
・子育てが終わってみると、自分には何か別にやるべきことがあったのではないかと考えるようになりました。
・夫の母親の介護で、家事以外の生活の全てを費やしています。このまま私の人生が終わるかと思うと寂しい。
・退職した夫の平日の食事や身の回りの世話で、自分の時間が制限されるのはウンザリです。


また、夫からなら、
・家庭でないがしろにされています。飼い犬でさえ私より大切にされていると思えるのに、私は何のために働いてきたのだろうか。
・私が稼いだ金で妻は優雅に遊んで、私は感謝もされない。
・私の価値を認めないばかりか、趣味(たとえば、プラモデル、モデルガンなどの収集、鉄道オタクなど)を、妻はくだらないとか子どもっぽいとか馬鹿にしている。


などの思いが、心の中で幾度となく思い巡るようであれば、熟年離婚へのカウントダウンは始まっているかもしれません。これらの不満の火種に共通するのが、「自分の存在を受け入れてくれない」ことへの苛立ちであり、「かまってくれない」ことへの寂しさなのです。

 

良好な夫婦関係の条件が、親密さや充足感を配偶者に求めて、それにどれだけ応えてくれるかに関わっているのですから、夫婦関係が揺らぎだせば、苛立ちや寂しさは当然おこる感情ですし、これまでも大なり小なりの夫婦喧嘩が起こっていたはずです。しかし、もし、夫婦間のコミュニケーションや家事・育児(と後述する介護)の分担がお互いに納得できる状態であれば、このような不満の火種は存在しなかったはずです。

 

一般に女性のほうが夫婦関係に気を配って、自分の存在を受け入れて欲しいという気持ちをしっかり自覚しています。男性は感情や欲求を抑えて問題の解決を優先し、夫婦の感情的、情緒的な関わりよりも、むしろ冷静な関係を好む傾向があります。つまり、女性は表面的には言葉で意思表現しますが、男性はむしろ女性との対決を避け、沈黙する傾向があります。このため、夫婦喧嘩となれば、夫の沈黙がますます妻の苛立ちに火を付ける悪循環に陥るのです。

 

実は、夫婦喧嘩を引き起こすキッカケは、極めてささやかな出来事の場合が多いのです。たとえば、「約束の時間に遅れた」だとか「洗濯物を取り込んでない」などなど。そこから「あなたはいつもそうだ」となり、これまでくすぶってきた不満の火種に一気に引火するのです。

 

このとき不思議にも、「自分の存在を受け入れてくれない」苛立ちや「かまってくれない」寂しさが言葉や感情として意識に上がってくることはありません。現実の表面的な出来事に執着するために、自らの心の奥底を自覚できていないのです。だからこそ、夫婦喧嘩の悪循環のキッカケとなる感情を見つめ直しさえできれば夫婦関係は改善する可能性があります。そうなのです、お互いが自分の存在を認めて欲しいとか、かまって欲しいという夫婦愛が根底に存在していることを理解できれば、夫婦関係改善のキッカケになるのです。

妻は、夫の「退職後の在宅」を期待していない

少しわき道にそれますが、あえて付け加えておきます。先述した不満の火種の具体例の中で、親の介護の女性負担が問題視されています。妻の介護負担について、夫婦間で納得できる会話を重ね、感謝や労いの言葉をかけるなどの思いやりがなければ、夫婦関係が改善される機会を失ってしまいます。

 

さらに、夫の退職後、「夫婦でいる時間が増えることは嬉しい」と思っている男性は
48パーセントいますが、女性は約半分の27パーセントです。さらに、「嬉しくない」と思う男性が17パーセントしかいないのに、女性ではほぼ2倍の33パーセントもいるのです(MDRT日本会、2006年)。

 

60代からの人生が長くなればなるほど、退職後に夫が自宅で長く過ごすことを夫婦ともに希望しない割合が確実に増えているのです。老後の生活不安を理由に再就職する夫が急増しているのも納得できますし、自分から何かすることがないのであれば、自宅に居づらいと言えるかもしれません。

 

さらに男性の趣味は、本来、子どもっぽいものです。女性が妻から母になれても、男性は子どものままです(単に自覚がないとも言えます)。子どものときに欲しくても手に入らなかった物が、余裕ができて購入可能になると、そのことにしか眼中にありません。さらに困ったことに、そんな趣味の世界に閉じこもり、妻を含め周囲の声に全く耳をかさない状態になってしまう人が多いのです。男性は脳の構造上、ひとつのことに集中する傾向があるからです。

 

ですから、女性の皆さま、どうかそんな男性の嗜好を理解して欲しいと願っています。もちろん、男性の皆様におかれては、好きなことができるのは家族の理解と協力があってのこと。感謝と労いの言葉を忘れないでください。

 

【ポイント】

夫婦間のコミュニケーションや家事・育児負担の不足などへの長年の不満が改善されないと熟年離婚の誘因になります。離婚を望みながら熟年離婚に踏み切れなかった女性も、2007年の年金制度改正で離婚後も年金が分割されるようになり、老後生活が保障されるような条件が整い出しています。

ただ、離婚でなくても、老後生活への不安は熟年夫婦の最大とも言える懸念事項です。積極的に検討することが、逆に夫婦の連帯感などを高めて離婚危機を押しとどめます。

 

「結婚を卒業」。それで何が変わるの?

「卒婚」の命名者は、『卒婚のススメ』(静山社 2004年)の著者の杉山由美子さんです。卒婚とは、読んで字のごとく「結婚を卒業」すること。その卒婚が意味するのは、パートナーを束縛しないゆるやかな結婚生活の中で、夫婦それぞれの生き方を楽しもうというもの。もっと具体的には、子どもが巣立って、後は二人で余生を送るだけとなった定年か、定年間近の夫と妻が、離婚をせずに別居、あるいは家庭内別居して、お互いのライフスタイルで生きていくことです。


私自身はこうした結婚生活後半の見直しがとても大切だと思っています。卒婚は形態的には別居(家庭内別居も含め)そのものです。別居生活を経験することでパートナーの良さも自己反省も生まれます。まさに結婚生活を見直して、今までにない新たな夫婦関係を始められるかもしれないのです。

 

マスコミで取り上げられた「ものまね四天王」の一人、芸能人の清水アキラさん(1954年生まれ)の「卒婚を卒業」したお話をしたいと思います。発端は、2013年11月のTV番組内で、清水さんが長野県内に移住し、「好きな魚釣りや家を直したりしている」だけで「ただ結婚生活の卒業です」と悠々自適の生活を楽しみながら、長野と東京を行き来する現況を報告したことです。

 

一方、34年間連れ添った奥様は「私は(長野での生活は)ダメ」と東京住まいを選択されたのです。ところが、2015年3月のTV番組内では、「(卒婚による一人暮らしは)実際やってみると大変。洗い物は洗わないし、洗濯物は洗濯しない」ことになり、1年4カ月にわたった卒婚を卒業して東京に戻ったことを報告したのです。おかげで、フルリフォームした長野の一軒家は雪かきする人もおらず放置状態。自慢の露天風呂も雪に埋もれているとか。

 

清水さんは奥様の大切さを再認識し、妻が出掛けるときには「チューしなきゃマズいだろ」と新婚時代を取り戻しているそうですよ。別居生活バンザイ!

 

 

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清水 一郎

おひさまクリニックセンター北 院長

 

ストップthe熟年離婚

ストップthe熟年離婚

清水 一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

夫や妻に対して積もったイライラ、そしてある日訪れる、熟年離婚の危機。人生100年時代と言われる今、残りの人生を有意義に過ごすための方法とは。統計データを基に夫、妻の攻略法を徹底解説。夫婦間で起きる問題と、その対処…

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