「視力回復」だけじゃない!?白内障「眼内レンズ」の劇的進歩

術後の「見え方」を左右する眼内レンズは、自分のライフスタイルや職業に合わせて選ぶのが一般的です。しかし、1985年に日本で眼内レンズが認可されたとき、眼内レンズは「単焦点眼内レンズ」一択でした。一体、どのような進化を遂げてきたのでしょうか。今回は、『「見える」を取り戻す白内障手術』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、「眼内レンズ」進化の歴史について解説します。

嚢内固定の安全な「眼内レンズ」が登場!

眼内レンズは、当初、虹彩の前に固定する「前房タイプ」が用いられましたが、まだ形状や材質に問題があり、術後時間とともに角膜内皮細胞が減ってしまったり、眼圧が上がって緑内障になってしまったりと問題が多く、普及しませんでした。

 

その後、水晶体の中味だけ取り出し、水晶体の袋を残す術式(超音波乳化吸引術:詳しくはこちら)の普及とともに、残した袋の中に眼内レンズを固定する眼内レンズ嚢内固定術が普及し、嚢内に固定する「後房タイプ」の眼内レンズが爆発的な進歩を始めました。

 

[図表1]白内障手術の進化の過程

 

 

眼内レンズの進化には、2つのポイントがあります。1つは、丸く折りたためるようになったことで角膜の切開創が小さくすむようになったこと。もう1つは、「多焦点眼内レンズ」が登場したことです。

 

まず、角膜の切開創が小さくなった歴史からご紹介します。

 

硬く濁った水晶体の核を安全に取り出すことができる「超音波乳化吸引装置」の登場により、創口が2ミリ程度で済むようになりました。しかし1970〜80年代は眼内レンズは進化の途上で、せっかく2ミリ程度の切開で済むようになったにも関わらず、折りたためない、硬いアクリル樹脂製のレンズ(直径6ミリ前後)を挿入するため、6ミリ程度の切開が必要でした。

 

この後、1990年頃になると、柔らかいアクリルやシリコン製の眼内レンズが開発されます。折りたたんで眼内に挿入できるfoldable眼内レンズが登場し、3ミリ程度の創口で手術が終えられるようになります。

 

[図表2]白内障手術

 

折りたたみ方にも変遷があります。

 

はじめの頃は鑷子(せっし)と呼ばれるピンセットのような器具で、眼内レンズを二つ折りにして目の中に挿入していました。その後、インジェクターと呼ばれる細長い筒の中に卒業証書のように丸めた眼内レンズを納め、筒を創口から入れて目の中に挿入するようになります。これにより、直径が6ミリの眼内レンズでも、2.4ミリ程度の半分以下の小さな創口で挿入できるようになりました。

 

現在は、レンズメーカーから出荷される段階で、注射器のような形状のインジェクター内に眼内レンズがあらかじめプリセットされ、眼科医の元に届くようになりました。手術の際には、この図のようにインジェクターを操作することで、眼内レンズが押し出され、丸まっているレンズは目の中で自然に開きます。

 

[図表3]インジェクター

 

このインジェクターが登場したことで、現在では最小で1.8〜2㎜程度の小切開での手術が可能となりました。切開創が小さいため角膜の縫合も不要で、糸で縫うことにより生じていた術後乱視も減少しました。

ライフスタイルに合わせて「眼内レンズ」を選べる時代

1985年に日本で眼内レンズが認可されたとき、眼内レンズといえば単焦点眼内レンズ一択でした。単焦点眼内レンズはよく見えますが、はっきり見える範囲(奥行き)が狭いのがデメリットといえます。

 

[図表4]単焦点レンズの見え方

 

人はある距離だけがはっきり見えれば良いわけではなく、いろいろな距離を同時に使用します。はっきり見える範囲を明視域といいます。年齢とともに老眼が進むと明視域が狭まっていきますが、単焦点眼内レンズは、もともと明視域が狭いレンズなのです。

 

明視域を広げるために多焦点眼内レンズの開発が進み、2002年、遂に日本でも多焦点眼内レンズが使用可能になりました。

 

しかし当初の多焦点眼内レンズは、遠方と手元に重点がおかれた2焦点眼内レンズでした(遠近タイプ)。このタイプは日常生活で一番用いる中間距離(50㎝〜1m)が見えにくく、あまり普及しませんでした。人間は常に、中間距離と遠くを交互に見ているため「中間距離を見るときだけメガネをかける」ということはできないのです。

 

車を運転する際、スピードメーターやナビは中間に位置します。また、テニスや卓球などの球技は、手を伸ばした距離、すなわち中間距離と遠くが見える必要があります。

 

2017年に中間から遠くまではっきり見える「遠中タイプ」の2焦点眼内レンズ(EDOFと呼ばれる)が登場し、国内では多焦点眼内レンズの使用者が増加しました。多焦点眼内レンズは「手元をメガネをかけないで生活できる」ということに加え、「中間から遠くまではっきり見える距離(明視域)を広げる」という考え方がプラスされたのです。

 

さらに、2011年にはヨーロッパ方面で、遠くも、中間距離も、手元もはっきり見える「3焦点眼内レンズ」が登場しました。満足感の高いレンズで、国内でも輸入して使用するケースが増えました。その後、ヨーロッパを中心に明視域を広げる多焦点眼内レンズが次々と開発され、患者さんそれぞれの仕事やライフスタイルに合った眼内レンズを選べる時代になりました。

 

[図表5]レンズごとの見え方の差

 

ただし、多焦点眼内レンズには(レンズにより強弱がありますが)、見え方の質が微妙に低下する「コントラスト感度の低下」や、夜間などに光のにじみやまぶしさを感じる「ハロー、グレア」の特徴があります。ほとんどの方は気になりませんが、ごく一部、気になってしまう方もおられます。最近は、コントラスト感度が高い多焦点眼内レンズやハロー、グレアの少ない多焦点眼内レンズも選べるようになってきています。

 

[図表6]ハロー、グレアの症状

 

また、ほとんどの多焦点眼内レンズは、乱視矯正機能を備えたトーリックタイプを持っており、紫外線やブルーライトカット機能は標準装備となっています。白内障手術はトーリック機能が標準となり、多焦点眼内レンズが進歩したことで、単に「矯正視力を回復する治療」から、「乱視や老眼まで治療して快適な見え方を実現する究極の屈折矯正治療」へと変貌を遂げたといえます。

 

※参考文献

・「これからの白内障手術」(東京慈恵医科大学 常岡寛 教育講演1第37巻2008)

・「あたらしい眼科」(メディカル葵出版 第26巻第8号2009)

 

 

板谷 正紀

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長

医療法人クラルス はんがい眼科 理事長 

京都大学眼科で網膜と緑内障の研究と臨床に従事。白内障手術、緑内障手術、硝子体手術などを駆使する術者として技術練磨に勤む。
埼玉医大眼科教授、日本眼科手術学会総会長、埼玉県眼科医会理事、埼玉腎・アイバンク専務理事などを歴任。

▼はんがい眼科の公式ブログ「目のブログ」▼
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著者紹介

連載近くも、遠くも、快適に…「見える」を取り戻す白内障手術

「見える」を取り戻す白内障手術

「見える」を取り戻す白内障手術

板谷 正紀

幻冬舎

レーザー白内障手術は、安全・快適・短時間に「見えない」という病気状態を解決し、「見える」を取り戻し、さらに快適に見えるを手に入れるまでに進化しました。この本では、進化した多焦点レンズ、レーザー白内障手術の最新情…