新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

池袋のイメージは「ダサい」が定番

スクランブルだ、テラスだ、ストリームだ、フクラスだ、ソラスタだ、と続々再開発ビルの産声が上がり最近喧(かまびす)しいのが渋谷だが、渋谷と並ぶ代表的な副都心といえば池袋。地味ながら、どっこい池袋が最近がんばっている。

 

池袋のイメージといえば「ダサい」が定番。おまけに治安が悪い。風俗街がキモい、道が汚い、東京人の多くが池袋と聞いてなんとなく思い浮かべるのが、こうしたあまり「よろしくない」イメージだ。

 

池袋は、戦後の闇市の整備が遅れたことが最初の躓きだった。1950年代頃から駅周辺には木賃アパートが密集し、淀橋浄水場の跡地を超高層ビル群に変貌させた新宿や、東急電鉄という大地主により計画的かつ積極的に開発が行なわれた渋谷に対して、常に後塵を拝してきたのが池袋だ。

 

それでも高度経済成長時代以降、拡大する人口の受け皿として池袋を起点とする西武池袋線、東武東上線沿線の人口が急増。池袋駅は都内に通勤する勤労者が乗り換える一大ターミナル駅へと成長してきた。JR駅別乗降客数ランキングでも池袋駅は1日平均で約56万人が利用、新宿に次ぐ地位は不動のものだ。1970年代には駅西口に東武百貨店、東口に西武百貨店という、なんだか道に迷いそうな東西が逆のアクセスながら大型商業施設が店舗を構え、沿線住民の消費を支えてきた。

 

だが、渋谷が東横線や田園都市線でお洒落でセレブなイメージを、新宿が中央線京王線、小田急線、西武新宿線によって高級住宅街のイメージを作り上げていったのとは対照的に、池袋は埼玉県の住民が多く集まったことから、「ダサイたま」などといって揶揄される埼玉県のイメージが重なり、「埼玉県の植民地」などと言われるようになったのだ。

 

だが埼玉県民御用達の街、池袋に転機が訪れたのが、1986年のJR埼京線の開通だ。それまでは埼玉県の沿線住民は、いったん池袋で乗り換えてから東京に出るために必ず池袋駅で乗降する。必然として池袋駅構内や周辺で買い物をすることが池袋の発展を支えていたのだが、この路線の開通によってストレートに新宿や渋谷に繫がってしまったのだ。

 

さらに2004年には湘南新宿ライン、2008年には東京メトロ副都心線が開通。特に副都心線は渋谷と池袋を繫ぎ、東武東上線や西武池袋線と相互乗り入れで直通運転を行なったために、埼玉県民は池袋をスルーして新宿や渋谷に買い物に出てしまうのではないかと危惧された。さらに池袋に対する危機感が露わになったのが2014年、池袋が属する豊島区が日本創成会議から全国に896ある「消滅可能性のある自治体」の一つに名指しされたことだ。

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不動産で知る日本のこれから

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牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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