「高級住宅街は高台」が教える武蔵小杉タワマン住民の悲劇

新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

社会インフラ整備のための負担金が必要?

この騒動は一時、多摩川の氾濫によるものとされたが、事実はやや異なるようで、大量の雨水が下水管に流れ込んだために処理しきれなくなって冠水したことが原因のようだ。

 

武蔵小杉では短期間の間に大量のタワマンが供給されたため、川崎市中原区の人口は20年前に19万5000人だったのが、現在は25万8000人に膨張している。そのため、区によれば社会インフラの整備が追いついていないという。

 

たとえば、急増する児童に小学校の整備が追いつかない、JR横須賀線の武蔵小杉駅は毎朝駅に入場する通勤通学客で長蛇の列ができるなどといった事態が、すでに何度も報道されてきている。そして今回の水害は下水道整備が追いついていないという実態も浮かび上がらせている。

 

牧野知弘『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)
牧野知弘著『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)

タワマンは広い敷地といえども、容積率いっぱいに地40階程度に聳え立っているために1棟当たりに居住する住民の数は半端ない。1棟当たり数百戸の住民が使う上下水が大量に流れ込む上に雨水の処理が間に合っていないのだ。これは個々のマンションの問題というよりも、短期間に急速に発展してしまった武蔵小杉という街の宿命ともいえよう。

東京都江東区では、総戸数30戸以上のマンション建設にあたっては開発業者に公共施設整備協力金をお願いしている。江東区は東京都心に通うサラリーマンの居住エリアとして大量のマンション建設が行なわれてきたが、住民の増加に伴って小中学校の整備が追いつかなくなるなどしたために、社会インフラの整備を目的にこの制度を導入している。

 

寄付金という建前だが、30戸を超える部分の住戸については戸当たり125万円の負担を求めており、多くの業者が負担し、学校や公共施設の整備などに充当している。

 

今後は武蔵小杉だけでなく、タワマンなどの高層建築物に対して社会インフラ負担金を求めていくべきなのではないだろうか。デベロッパーはマンションを建設、分譲してしまえばあとは「売り逃げ」するのが基本的な行動パターン。武蔵小杉はその典型で、デベロッパーが各社勝手に分譲し、その後の面倒は見ていないので、街全体が殺風景で彩(いろどり)に欠ける街並みとなっているばかりか、今回のような水害の一因になっているのではないかと考えられる。

 

社会インフラの整備を旧住民だけでなく開発業者や新住民たちにも応分に負担させることで、社会全体での安心、安全な街づくりになる。今回の台風災害で得た教訓を新たな防災の考え方に活かしていきたいものだ。

 

牧野 知弘

オラガ総研 代表取締役

 

オラガ総研 株式会社 代表取締役

1959年、アメリカ生まれ。東京大学経済学部卒。ボストンコンサルティンググループを経て、三井不動産に勤務。2006年、J-REIT(不動産投資信託)の日本コマーシャル投資法人を上場。現在は、オラガ総研株式会社代表取締役としてホテルや不動産のアドバイザリーのほか、市場調査や講演活動を展開。主な著書に『空き家問題』『民泊ビジネス』『業界だけが知っている「家・土地」バブル崩壊』など多数。

著者紹介

連載不動産の動きを観察すれば、日本経済がわかる

不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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