新型コロナウイルスの感染拡大によって景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。本連載は、多くの現場に立ち会ってきた「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産で知る日本のこれから』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産を通して日本経済を知るヒントをお届けします。

台風19号で「武蔵小杉」駅改札口が水没

今回の台風19号で川崎市高津区にある4階建てマンションの1階部分が水没して、住民である男性1名が亡くなったという。

 

亡くなった事情はわからないが、思い出されるエピソードがある。マンション業界では、開発のために取得した土地の上になるべく多くの住戸を確保した建物を造りたい、と考える。だがそれぞれの土地には用途地域から容積率、建蔽率などさまざまな規制があり、この規制の範囲内で建物を建設する必要がある。とりわけ住居地域などで苦労するのが、建物の高さ規制だ。

 

街を歩くとときたま、1階部分が半地下のようになっているマンションを見かける ことがあると思うが、実はこうしたマンションが建つ多くの土地が高さ規制10mの土地だ。

 

高さが10m以内の土地では、普通に建物を建設すると3階建てが限界である。そこで、地面を掘って1階を半地下にすれば、4階建てにできるのである。世の中にはこうして建てられた「なんちゃって4階建てマンション」が数多く存在する。

 

 

ところがこうしたマンションは、あたりまえだが水害が生じた場合なす術がない。私の知り合いが勤めるデベロッパーでも以前、こうしたマンションを建設分譲し、数年後に台風による水害で水没しそうになり、土囊(どのう)を持って駆け付けたなどというエピソードがあるそうだ。そのデベロッパーではこうした潜水艦マンションはその時の教訓で現在では企画しなくなっているという。

 

また今回話題となったのがタワマンの街、川崎市中原区の武蔵小杉で大規模な冠水があったことだ。武蔵小杉という場所はもともとNECをはじめとした大中小の工場がひしめく場所だった。多摩川にも近く、ハザードマップなどでも水害の危険性が高いと指摘されている。古くからの川崎や横浜に住む住民から見ると、武蔵小杉はけっして良い印象がある街ではなかった。

 

ところが産業構造が変わり、工場の多くがアジアなど他地域に脱出すると、この工場跡地にデベロッパーが続々タワマンを建設する。2008年に最初のタワマンが完成した以降は数多くのタワマンが林立する街へと変貌を遂げ、SUUMO調査の「住みたい街ランキング」でも上位を占める常連になっている。

 

ところが台風19号によりJR横須賀線の「武蔵小杉」駅改札口が水没、駅前ロータリーはJR駅前のみならず東横線側でも冠水し、一時は水位が成人の胸の高さにまで及んだとの報告もある。こうした状況下、ネットでは一部のタワマンで地下部分に浸水が起こり、マンション内のトイレの使用を当面の期間禁止する張り紙が出たとの話が拡散され、騒然となったという。

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不動産で知る日本のこれから

不動産で知る日本のこれから

牧野 知弘

祥伝社新書

極地的な上昇を示す地域がある一方で、地方の地価は下がり続けている。高倍率で瞬時に売れるマンションがある一方で、金を出さねば売れない物件もある。いったい日本はどうなっているのか。 「不動産のプロ」であり、多くの…

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