
これからの時代を経済的に困窮することなく生きるには、「経済センス」を磨くことが不可欠です。経済コラムで多くのファンを持つ経済評論家の塚崎公義氏が、身近なテーマを読み解きます。第23回は、不況期にこそ回復困難な企業を見捨てず支援すべき理由を解説します。
新型コロナ不況、優先すべき対策は「資金繰り支援」
新型コロナ不況は、飲食店等々の資金繰りを直撃しています。収益の支援も必要ですが、なにより迅速な資金繰り支援の必要があります。
支援の必要性の有無を判断していると時間がかかるので、まずは幅広く融資を行い、必要性を認めたところには返済を免除する、という手順が望まれます。
納税と社会保険料の納期を1年待ち、必要な先には1年後に免税する、という手段を筆者は考えています。超少数説のようですが、筆者の自信作なので、『コロナ不況、現金給付より「納税一律1年間延長」が有効なワケ』をご参照いただければ幸いです。
もっとも、企業のなかにはコロナ以前から赤字経営を続けていて、収束宣言以降も回復の見込みのないところが含まれています。「ゾンビ企業」と呼ばれる企業です。上記の方法では、そうした企業も支援してしまうことになりますが、その点はどうでしょうか?
筆者は、それでいいと考えています。ひとつには、なにより必要なところへの資金繰り支援を急ぐことが重要なので、仮に支援すべきでないところに資金が回ったとしても、それは迅速化のための「必要コスト」だと考えるからです。
もうひとつは、今回の主題である、回復困難な借り手であっても、不況期には支援して生き延びさせるべきだからです。
ゾンビ企業であれ、一時的な苦境に陥っているだけの企業であれ、倒産すると景気をさらに悪化させてしまいます。経営者と従業員が仕事と収入を失い、消費をしなくなるからです。
倒産が増えると、銀行が貸出しに慎重になるかもしれません。悪くすると、銀行の自己資本が減って、自己資本比率規制による貸渋りを余儀なくされるかもしれません。そうなると、「倒産増→貸渋り→倒産増」という悪循環に陥りかねないわけです。
ちなみに、前回の記事『赤字企業を「銀行が生温かく見守り助け続ける」冷淡な事情』で記したとおり、ゾンビ企業であっても、借り手が倒産すると銀行にとって大きな打撃となるので、銀行にも支援するインセンティブがあるわけですが、景気という観点からは、政府にも救うインセンティブが大きいわけです。
景気だけではありません。企業が倒産すると、まだ使える機械がスクラップされてしまったり、企業の持っているノウハウ等が雲散霧消してしまったりして、日本経済にとって大変もったいないことが起きますから、使える機械があるならば、それを使い尽くすまでは少なくとも生かしておきたい、ということもいえるでしょう。

赤字企業の倒産は「好況期」のほうが好都合
ゾンビ企業はその定義からして、いつかは倒産する運命にあるのでしょうが、不況期より好況期に倒産してくれたほうが、日本経済にとってはるかに好都合です。
好況期は失業率が低いので、仮にゾンビ企業が倒産して従業員が失業しても、すぐに次の仕事が見つかるでしょう。したがって、消費のさらなる落ち込みで景気悪化…という悪循環に陥ることも考えにくいのです。
貸倒れが少なければ、銀行の自己資本比率にも問題が起こりにくく、自己資本比率規制によって銀行が貸渋りを余儀なくされるという心配も小さいでしょう。
要するに、ゾンビ企業であっても、不況期には雇用の受け皿等として日本経済に大きな貢献をしているが、好況期には雇用の受け皿が必要ないので、倒産してもかまわない、ということですね。
もしかすると、好況時には労働力不足になるのだから、ゾンビ企業は倒産してくれたほうが望ましい、ともいえるかもしれません。
「不況だから赤字企業を淘汰」との意見に反論
世の中には「そもそもゾンビ企業は、日本経済効率化の妨げだから淘汰されるべきであり、不況にはゾンビ企業を淘汰してくれるというありがたい役割がある」と考えている人もいます。
小泉構造改革の大きな柱はゾンビ企業の淘汰でしたので、小泉改革を支持していた人は(意識していたか否かは別として)上記の考え方に与していたことになります。
つまり「景気悪化は悪循環を起こすから、倒産が増えるとどんどん景気も悪化してしまう」ということを気にかけない人です。「失業している人は、いつまでも失業していると損だから、給料の安い企業に就職するだろう。したがって、失業問題など気にする必要はない」というわけですね。
上記のような思考回路をもつ人は、そもそも「経済はいかにして動くのか」ということへの理解と解釈が筆者と正反対なわけですから、議論をするのは無駄でしょう(笑)。
しかしここでは、筆者としての反論を示しておきたいと思います。どちらの言い分が正しいのか見極めたいと考えている読者には、ぜひお読みいただきたいと思うからです。
ゾンビ企業は「好況による労働力不足」でも淘汰される
ゾンビ企業は、不況による売上減少でも淘汰されますが、好況による労働力不足によっても淘汰されます。したがって、わざわざ不況期に淘汰する必要はないのです。
景気が回復してくると、労働力不足になります。とくに日本は少子高齢化ですから、労働力不足になりやすいでしょう。そうなると「賃金を上げないと労働者が逃げ出してしまう」という状況になるわけです。
ゾンビ企業には、賃上げをする余裕がありませんから、低賃金のまま労働者を雇い続けようとしますが、労働者が給料の高い仕事に移ってしまうので、「ゾンビ企業が労働力を抱え込んでいるから経済が効率化しない」ということにはならないのです。
結局、ゾンビ企業自体が消滅してしまうかもしれませんし、消滅しないまでも労働者が減っていけば、ゾンビ企業を淘汰する必要性も減っていくでしょう。
問題は、政府が不況期にゾンビ企業を支援すると、その支援が景気回復後も続いて、本来労働力が流出すべきゾンビ企業が労働力を囲い込み続けてしまう、という可能性です。
政府の支援は不況期に限ること、景気が回復して労働力不足になったら支援を打ち切ること、それをあらかじめ決めておくこと、などが必要でしょうね。
今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、わかりやすさを重視しているため、細部が厳密には正確でない場合があり得ます。
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塚崎 公義
経済評論家